「営業利益率54%」キーエンスに株主反発のわけ 高収益に満足も、10%程度の低配当に不満

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過去には消極的だった株主やアナリストとの対話の機会を増やしている。実際、「昔と比べれば会社側の考えを理解できるようになり、意見を交換しやすくなった」(外資系機関投資家)との声も出ている。

木村氏は「キーエンスは付加価値の創造こそが企業の存在意義であると考えてきた。付加価値を創造する企業としてグローバルでさらに大きく成長するために、ファブレスによるFA事業にとらわれることなく、機会を捉えながら、M&Aも含めた成長投資を積極的に行っていきたい」と、柔軟に事業を変えていくための資金が必要だと強調する。

キーエンスのあり方が日本市場に影響する

その言葉どおり、キーエンスは今年、金融、小売り、ECなど業種を問わず、利用顧客が持つデータを分析してマーケティングや営業、製品開発などを効率化するソフトウェアの販売を開始。データを読み込むだけで改善したいビジネス課題に対して有効な施策を提示して業務をサポートするシステムだ。

それでも機関投資家が反対の意思表示を繰り返すのは、会社側の説明に納得できないからだ。また、会社側との対話が増えるようになったとはいえ、「長期での経営方針や事業の状況についての説明がいまだ不十分ではある」との声も根強い。

一般的に機関投資家は顧客から資産を預かり、それを元に運用を行って収益を得る。顧客に対する説明責任があるため、株主総会への議決権行使に際しては一定の基準をもっていることが多い。「(キーエンスは)高収益企業で投資対象として文句はないが、還元など株主への対応は顧客にきちんと説明できない以上、反対の態度を表明せざるをえない」(前出の外資系機関投資家)。

キーエンスの時価総額は9月9日時点で約7.9兆円。ソニーに次ぐ大きさで、ソフトバンクや三菱UFJフィナンシャル・グループ、ファーストリテイリングを上回る。海外投資家からの注目度も極めて高く、「キーエンスのあり方は日本市場の魅力にも影響する」(外資系ファンドマネージャー)。キーエンスの株主還元策は日本株投資に大きな影響を与えそうだ。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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