女性2人が体験した、本当に怖い「相続の失敗」 日本で一番相続を扱う事務所が教える

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相続時精算課税制度(以下「本制度」)とは、その名のとおり、「相続」のときに「精算」する制度です。筆者が見る限り、「2500万円まで非課税」という数字だけが1人歩きをして、制度を理解しないまま使ってしまう方が多いようです。

ここで理解すべきポイントは、本制度を使って生前に贈与された財産はすべて、相続時に相続財産に加え直して相続税の対象となる、という点です。

本制度の絶対に知っておきたいポイント

このケースでいうと、本制度を選択して以降もらった財産すべて、つまり、2500万円+1100万円=3600万円を、相続発生時点の父の財産にプラスして、相続税が計算されるということになります(納付した贈与税がある場合は相続税から控除できます)。

また、本制度は、累計で2500万円までは非課税ですが、それを超えたら一律20%の贈与税がかかる制度です。本制度を選択した年に、すでに2500万円の非課税枠を使い切ってしまいましたから、その後に貰った110万円については、毎年一律22万円の贈与税の申告と納付が必要であったというわけです。

そして、この制度の最重要ポイントは、1度父からの贈与について本制度を選択したら、父からの贈与については2度と暦年贈与課税制度(年間110万円まで非課税)へ戻ることができない、二度と年間110万円の非課税枠は使えない、という点です。

たとえ年間50万円の贈与を受けたとしても、一律20%ですから10万円の贈与税の申告と納付が必要となるのです(本制度を選択していない、母や祖父母からの贈与については従来どおり暦年贈与課税制度が使えます)。

また、相続対策という観点からは、暦年贈与課税制度では、贈与した財産をご自身の財産から切り放すことが可能ですが、本制度では相続時にまた加え直します。ですから、ご自身の財産を減らすという方向の相続対策には何ら役に立たないという点をよく理解しましょう。また、二度と暦年贈与課税制度に戻れない点も考慮し、本制度の選択には十分な検討をするよう、心がけてくださいね。

井口 麻里子 税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士

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いぐち まりこ / Mariko Iguchi

慶應義塾大学卒業。2009年2月に独立系の税理士事務所としては最大手の辻・本郷税理士法人に入所。その後、2年半にわたり、メガバンクのプライベート・バンキング部門へ出向。税務顧問を担当し、主に富裕層の相続対策、資産承継、事業承継の相談に応じてきた。帰任後は、相続コンサルティングを主業務とする相続部に在籍。日々、多くの顧客と接する傍ら、執筆活動やセミナーも開き、相続問題の解決に全力で取り組んでいる。趣味はトレッキング。
 

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