日米同盟の本質は他国と比べないとわからない たこつぼにいる専門家の情報独占が問題だ

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鶴岡:そもそも、国防予算水準のみで安全保障のバードン・シェアリングを理解すべきではありません。しかし、トランプ政権下で、国防予算に焦点が当たってしまっているのは事実でして、そうである以上日本は、なぜ1%でよいのか説明しなければなりません。少なくとも、他の同盟に比較して日米同盟を正当化する必要があるとの意識が不可欠です。

日米同盟だけの世界に漬かっていると、どうしてもそうした発想が生まれません。アメリカも多様ですから、日米関係を含めたアジア政策の専門家のみならず、NATO、中東、ロシアなどの専門家、あるいは地域の専門を持たない外交・安保コミュニティーのメンバーと、いかに共通言語を持てるかが、日本には今まで以上に問われているのだと思います。

そうしたことに気づかされたきっかけが、私にとってはNATOでした。「日米同盟のリアリティー・チェック」ということでしょうか。

最も重要な日米関係が研究できない

船橋:鶴岡さんの前職は防衛省防衛研究所(防研)の主任研究官です。防研にはもちろん、国防大学的な教育機関という非常に重要な役割もありますが、近年では研究機関としての国際的評価も高まり、シンクタンクとしての機能も期待されています。

防研時代を振り返りつつ、これからの防研のあり方について、考えをお聞かせください。

鶴岡:8年間、防研にいましたが、とても有意義、かつ、非常に多くを学ぶことができました。今でも感謝しています。

ご指摘のように防研がシンクタンクであると同時に教育機関、つまり国防大学であることは、非常によいことだと思っています。2年目から講義とセミナーを担当しましたが、学生は主に1佐クラスの非常に優秀な幹部自衛官で、皆さまざまな経験を積んでいます。彼らとの議論のなかで、こちらが学ぶものも多かったです。インフォーマルかつ自由な雰囲気で現場感覚に接する貴重な機会です。こういった部分は、純粋な政策シンクタンクだと期待できません。これは防研の強みです。

船橋:反対に、弱みというか課題のようなことで感じられたことはありますか。

鶴岡:防衛省は「防研の活用」、防研は「政策支援の強化」が目指されつつ、双方にその準備が整っていないのが構造的問題だと思います。「使う」ほうにも「使われる」ほうにも、サブスタンスの能力のみならずテクニックが必要ですが、これがなかなか確立されません。その結果、防研に蓄積されている知見が浪費、ないし政策に活用されにくい状況が生まれてしまいます。ただ、これは防衛省のみの問題ではなく、政府機関全体にとっての課題だと思います。シンクタンクをいかに活用できるかということです。

船橋:それは不思議ですね。今みたいな時代、例えば、中国の「一帯一路」にしても、それが軍事的にどのような意味合いを持つのか、日本の安全保障にどのような影響があるのかと、防研が研究すべき課題は山積しているのではないですか。サイバー戦争もそうですよね。ニーズがありすぎて困るほどだと思いますが。なぜ、そんなことになっているのでしょう。

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