船橋:なるほど。よくわかりました。ところで、NATO研究の重要性はどこにあると考えられていますか。
鶴岡:日米同盟を安全保障政策の基軸としている日本が忘れてはならないのは、NATOは欧州の国際機関というよりも、アメリカ主導の同盟であるということです。日米同盟が重要であるならば、アメリカが日本以外の諸国とどのような同盟を結んでいて、同盟国とどのような関係を築いているのか、日本はもっと関心を持たなければならないと思います。
日米同盟は特殊な同盟
船橋:NATOをじっくり見ることで、日米同盟の何かがよく見えるということがありますか。同盟経営というような観点も含めて。
鶴岡:日本にとって日米同盟は死活的に重要ですが、それは、非常に特殊な同盟です。日米同盟だけを見ていると、それが当たり前の同盟のあり方に思えてしまいますが、違います。
最近、トランプ大統領が日米同盟は不公平な同盟だと発言して、議論を呼びました。日本が攻撃されたら、アメリカは第3次世界大戦を戦うが、アメリカが攻撃されても日本はソニーのテレビで見ているだけだ、との趣旨の発言でした。
これに対して日本では、「トランプさんは何もわかっていない。ただ乗りだとかフェアじゃないなどというのはわかってない人の発言だ」と批判しました。日米同盟の歴史が、相互性の確保と、非対称性への手当てであり、基地の提供のみならず、対潜水艦作戦(ASW)や警戒監視などで自衛隊の役割は大きく拡大してきました。「ただ乗り」批判は時代遅れという側面は確かにあります。
しかし、過去の日米同盟との比較のみならず、NATOなど、現在の他の同盟との比較が必要です。集団防衛のコミットメントに関して日米同盟が非対称的であるのは否定しえません。自衛隊が日本防衛以外で戦闘任務を行うことも想定されません。その意味で、トランプ大統領の発言は、真実の一部です。国際政治的な常識で考えると、アメリカが攻撃されても日本がテレビで見ているだけだとすれば、それはやはりおかしな、特殊な同盟になってしまいます。
トランプ政権はNATO諸国に対して、GDP比2%の国防予算支出を強く求めています。これに遠く及ばないドイツ(2019年推定値で1.36%)への批判はとくに目立っています。日本は約1%です。日本とNATOとでは国防予算の算出方法が異なり、NATO基準を適用すると日本は1.1~1.3%になるというのが防衛省の試算です。それでも低い数字でして、日本がNATO加盟国であれば相当にたたかれる水準でしょう。
アメリカでも日米同盟の歴史や機微をよく知っている人は、2%などとても無理だとわかっていますから、無理な要求はしない紳士的な人が多いわけですが、そうした世界にいない人にとって、日本だけが1%でよい正当な理由はありません。トランプ大統領を筆頭に、アメリカ人のほとんどは後者に属します。
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