女性だけが獅子奮迅する社会はもう続かない 小室淑恵「男性の育児休業は義務化が必要だ」

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船橋:これまで、政策課題としてのワーク・ライフバランスに取組んでこられましたが、振り返ってみて、これまでの評価と今後の課題や、今取り組んでおられることも教えてください。

小室:忸怩たる思いです。もう手遅れになる直前の、ギリギリのタイミングで大急ぎで働き方改革を始めましたが、あと5年早かったら、出産期の女性の数はもっと多かったので、次世代にはもっと豊かな社会保障を残してあげることができたはずです。

また、私が平成を総括して思うことは、平成は女性が獅子奮迅の活躍をした時代でした。「平成は女性活躍が進んだ時代」と良く言われますが、それは女性が家庭サイドから仕事の領域も頑張るというスーパーウーマン化することで支えてきたに過ぎません。

一方、男性は子育てや家事労働などの家庭の領域にほとんど入って来ませんでしたから、さすがのスーパーウーマンも、もう疲弊してきています。それを見て育った世代には「働くのは大変そうだから、私は主婦になる」という女子学生と、「父親は家族を全然幸せにしていなかった」と考えて、結婚や子どもを持つこと、仕事をすることにも後ろ向きな男子学生が増えています。そのような次世代をつくり続けている、女性だけが獅子奮迅する社会はサステナブルではありません。

ですから、令和は男性が家庭でも活躍する時代にしなくてはいけません。そのために他国の例を見ると、きわめて有効な手段が、男性の育児休業を(企業に)義務化することだと思います。

船橋:法制化にもっていくのに必要なことはなんでしょう。

小室:働き方改革のときもそうでしたが、政府に働きかけるだけでは社会の実態を変えることはできません。

他社から尊敬を集めるような企業が経営戦略に組み込んで自主的に推進していくことだと思います。例えば、自動車部品メーカーのアイシン精機は伊勢清貴社長が自ら「男性社員の育休取得率100%を目指す」と宣言しました。

アイシンは中部地区でトヨタ系列の競合4社が人材を奪い合う中で、優秀な男子学生の採用にしのぎを削っています。生産性本部の調べでは、男子学生のなんと8割が育児休業を取得したいとアンケートに答えていますが、日本社会の男性育児休業取得率はたった6%です。つまりその差74%は希望をかなえられていないのですから、「わが社はあなたの希望を実現させることが出来るよ」というメッセージが響くのです。

アイシンの現時点の育休取得率は13%ですが、その数字をあえて公表して、早急に100%取得できるように制度を改革していくということを宣言しています。その影響は大きく、追随する企業が続々と現れています。こうした企業の自発的な動きは法制化の後押しになると思っています。

公立学校の教員の働き方改革をコンサルティング

船橋:ほかに、今取り組んでおられることはありますか。

小室:私には、この国を変えていくために最も重要なのは、教育現場の改革だとの思いがあります。なぜこんなに多様性のない、軍隊式で受け身を助長するような公教育をいまだやっているのか。それは現場の先生方がいちばん感じていることに違いないと思います。なのに、なぜ改善できないのかというと、先生方が過労死寸前の状態で働いているからです。霞が関と同じで、疲弊しすぎてしまっていて、現状を変えたり新しいことを始めたりする余裕がないんです。

どんなに「アクティブラーニング」「英語必須化」「IT教育」と新しいカリキュラムを文科省が作って良かれと思って現場に落としても、過労死寸前の現場の教員は悲鳴をあげていて「もう、何も新しいことなんて始める余裕はない。もういい加減にしてくれ」としか思えないのが現実です。

そこで3年前から弊社のCSR事業として、教育委員会と連携して学校に働き方改革コンサルティングを提供し始めました。民間企業から最も人気のあるトップコンサルタントが、ほぼボランティア価格で静岡や広島、岡山、埼玉の小中学校に行って、「カエル会議」という手法をお教えしながら残業時間を半減させていきました。その結果、「児童生徒に向き合えている実感がある」と回答する教員が3割だったのが8割にまで増えました。

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