森ビル、虎ノ門「第2ヒルズ」に勝算はあるか 総事業費は六本木の2倍、30年計画の成否

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気がかりなのは、非上場会社である開発主体・森ビルの財務内容だ。2019年3月期の同社の売上高は2461億円の一方、有利子負債残高は約1.3兆円にのぼる。自己資本比率は23.5%だが、虎ノ門ヒルズなどの大規模再開発が続いた結果、有利子負債は10年前の約6700億円からちょうど2倍に膨らんだ。

虎ノ門・麻布台プロジェクトが一段落すると、次は六本木ヒルズの東側での「六本木五丁目西地区計画」が待っている。計画予定地は六本木ヒルズを上回る広さで、投資額も数千億円規模にのぼるとみられる。

森ビルはこれまで、開発したビルからの賃料収入に加え、ビルの持ち分の一部をグループ会社の森ヒルズリートに売却することで、投下した資金の回収を図ってきた。巨額投資に邁進する同社だが、過去には苦い思い出もある。

中国・上海ヒルズの「苦い思い出」

それは、中国・上海で2008年に竣工した地上101階建ての超高層ビル「上海環球金融中心(通称:上海ヒルズ)」だ。元々は2001年に竣工する予定だったが、景気変動の波にもまれて計画が遅れ、事業費がみるみる膨れ上がっていった。他方で、現地企業から一部フロアを好条件で取得したいという申し出もあり、森ビルは同ビルの数フロアを売却した。

【2019年8月29日17時38分注記】上海ヒルズのフロア売却に関する初出時の記述を、上記のように修正いたします。

虎ノ門・麻布台プロジェクトの模型と森ビルの辻慎吾社長(記者撮影)

森ビルが現在所有・転貸しているオフィスの貸室面積は約74万平方メートルだが、虎ノ門・麻布台プロジェクトが竣工すれば、新たに約21万平方メートルの床面積が加わる。

テナント需要について辻社長は、「マーケットは非常によく、ほかのオフィスとは異なる強みを持っている。厳しい状況に追い込まれることは考えていない」と強気の姿勢を崩さない。しかし、周辺の大規模ビルが相次いで竣工する影響が賃料や稼働率に広がるかは見通せない。

現時点で計画されている虎ノ門エリアの再開発事業の中でも、森ビルの虎ノ門・麻布台プロジェクトは後発だ。ビルが竣工する2023年までにヒト・モノ・カネを吸い寄せられるほどの磁力を虎ノ門に持たせられるかは、虎ノ門という都市のみならず、森ビル自身の今後も占う試金石となりそうだ。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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