野村克也氏「超二流なら天才や一流に勝てる」 凡人でも努力次第で「超二流」に到達できる
1970年には、「黒い霧事件」(プロ野球の八百長騒動)に関連して、実際に江夏も「野球賭博の常習者と交流していた」ということで戒告処分を受けている。その件もあって、私は江夏を少々疑ってしまった。
そこで単刀直入に「お前、八百長しているのか?」と問いただしたのだ。「絶対にやっていない」と答える江夏に対して、私はさらに言った。
「お前は疑惑を持たれ、1度信用を失った。その失った信用はそう簡単には取り戻せない。マウンドで、ピッチングで信用を取り戻すしかないんだ」
阪神で大エースだった江夏には、首脳陣を含めて誰も厳しいことを言わなかったのだろう。まさに腫れ物に触るような扱い。だが、私は無遠慮なところがあるから聞きにくいことでも平気で聞いてしまう。それがかえって江夏の心を揺さぶり、私と信頼関係を築くきっかけになったと、のちに本人から聞いた。
江夏豊ほど野球を考え抜いていた男はいなかった
それからは、ことあるごとに江夏とは野球談義をした。何しろ、江夏が私のマンションの隣の部屋に引っ越してきたのだ。家も隣同士、仕事場も一緒なのだから、ほとんど1日中つかず離れずの毎日。試合後の食事中も一緒に家に帰る車の中でも、ずっと野球の話をし続けていた。
それだけではない。江夏は毎晩のように隣の私の部屋にやってきて、夜が明けるまで野球談義をしようとする。「あの1球のサインは意味がわからない」「どんな根拠があるんだ」「じゃあ、このシチュエーションならどうだ」「この場面でのバッターの心情は?」など。正直、少しは寝かせてくれとも思ったが(笑)、今思い返してみると、実に楽しい時間だった。
私の知る江夏豊は、これほどまでに野球に執念を燃やし、自らの強みを理解し考え抜いて、日々取り組んでいたのだった。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら