野村克也氏「超二流なら天才や一流に勝てる」

凡人でも努力次第で「超二流」に到達できる

辻に関してはすでに大ベテランになってからヤクルトに移籍してきたから、接した期間は短いし、私の薫陶もさほど受けていないのかもしれない。ただ、宮本や土橋勝征ともよく似て自分のすべき仕事をよく理解して、考えて野球ができるタイプの選手だった。だから監督やコーチにはふさわしいだろうなと当時から思っていた。ほかの選手たちは、私が育て上げたと言っても許してもらえるのではないか。

「準備」の一流になればいい

野球は独特なスポーツだ。一球一球「間」というものがある。では、その「間」はいったい何のためにあるのか。そこに野球の本質がある。

ピッチャープレートからホームベースまで18.44m。ピッチャーが投げたボールがミットに収まるまで、時間にしたら1秒もかからない。150キロの球速で0.41秒の到達時間というデータもある。それを何も考えずにバッターが待っていたら打てるわけがないのだ。

真っ直ぐだ、変化球だと1秒もたたないうちに見極めて対応するなんてことは、どんな天才にだって難しい。だからしっかり「準備」をしなければならない。だったら「準備」の一流になればいい。

野球の「間」は、その準備をする時間、考える時間なのだ。それにもかかわらず、多くの選手は何もしない、何も考えない。

例えば、楽天時代の山﨑武司は、天性だけで野球をやっている選手の典型例だった。私は彼に「頭を使って準備しろ」と言った。

バッティングの7割ほどは「準備」である。ピッチャーの傾向、試合展開、得点差、アウトカウント、ボールカウントなどの状況で逐一判断して、次に投げてくるだろう確率の高い球を予測する。

山﨑はホームランバッターなので、「そこに、少し勝負心を加えてみたらどうだ」とアドバイスをした。「次は、絶対変化球だ!」と思って準備していたところにズバッと真っ直ぐがきて、まったく手が出なかったとしても私は何も言わない。自分なりの確固たる根拠があって、備えたならそれでいい。

そして、次の打席までに「あの状況では、絶対に変化球のはずなのに、なぜストレートだったのだろう」と考える。この失敗を次に生かせばいいのだ。

このように、野球の本質は、「準備」にある、ということがわかる。それは、一球一球のインターバルだけでなく、ベンチでも変わらない。ベンチは休憩する場所ではなく、準備をする場所だ。ピッチャーだったら、味方の攻撃中はベンチの中で、次はあのバッターで始まるからどう攻めるかを考える。

バッターなら相手ピッチャーをよく観察して、初球はどのボールを投げることが多いのか、どのカウントでどのボールを投げるのか。そうやって「間」を使って準備を積み重ねて初めて結果を出すことができる。プロセスが重要だと私が言っているのも、この点にある。

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