「結論ありき」でこそ民主主義が機能する理由 「不純なリベラリズム」が共同体維持を守る

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佐藤:問題は先ほど柴山さんがおっしゃったように、「自由」が政治の概念から経済の概念に移行していったことではないでしょうか。その結果、「自由とは合理性と効率性の追求だ」ということになってしまった。

わけても産業化を進めるときは、不純なものがないほうが、物事は合理的・効率的に進む。少なくとも理論上はそういう結論が出るはずです。だったら、不純なものを排除すればするほどいいことになる。リベラリズムを純化させたのは産業化の進展だと思います。

中野:その視点は重要ですね。

民主主義は「内輪」でなければ機能しない

柴山:デモクラシーにも2つあって、1つは民衆の公共的討議によって国家、社会の進むべき道を決めるという部分。

もう1つは、政府が典型ですが、権力者はつねに情報を隠したがるので、意思決定の過程をオープンにしていくという部分。

ところが現実には情報を公開して意志決定を透明にすればするほど、デニーンの言うリベラリズムの論理が浸透していくんです。「情実で人選するな」「オープンな基準に基づいてやれ」となってきて、人間関係的な部分がどんどん排除されていく。これがいきすぎると個々人の共同体的なつながりが薄れて、今度は公共的討議も難しくなる、ということもあるのではないか。

佐藤:歯止めを加えるとしたら、本来の意味での市民主義しかないのでは。シチズン(市民)は、語源的には「内輪の者」です。だから政治参加の権利を持っている。

:著者もペーパーバック版の序文で、「民主主義は本来的には、透明性云々ではなく、もっとクローズドな、共有の文化的な絆があるポリティカルな共同体の中で機能するものだ」と言っています。

中野:しかし密室であうんの呼吸で決めていくとなると、それこそまさに古い自民党の政治スタイルですね。

:案外それは正しいデモクラシーのスタイルで、デモクラシーとは本来、中間的な共同体、労働組合、教会といったインフォーマルな合意形成の場が多数存在する状況でないとうまくいかない制度だと言えます。

中野:確かに民主主義がちゃんと根付いているのは、中間団体がたくさん残っている、封建社会があった国です。中国は封建社会がなかったから民主化できないでいる。ちなみに、くだんの憲法学者が理想としていた「丸裸の個人と国家」という社会は、まさに中国ですね(笑)

:與那覇潤氏が以前、「民主主義は封建遺制」と指摘していましたが、実際デモクラシーとは、ギルドの寄り合いから始まったやり方を統治に対応させたものとも言えますね。

佐藤:民主主義が機能する条件は「結論ありき」です。大枠が決まっているところで、細部を修正して調整するために議論する。大枠がないのに民主主義をやったら話がまとまらないまま、その時々の多数派が好き放題ということになりかねない。

中野:結論が決まっていることを、集まって確認するのが民主主義なんだ(笑)。

柴山:会議が長くなるのは、最初から合意が見えていないときですね。おおよそ決まっている結論を修正するためにやっていたのを、結論から決めなきゃいけないとなると、会議が長くなるうえに合意も得にくくなる。

中野:結局デモクラシーとは、共同体運営のための方法論であり、村の原理、寄り合いの原理なのだということになる。

柴山:自由主義(リベラリズム)と民主主義(デモクラシー)が近代の2大原理と言われますが、自由主義が共同体を空洞化してしまうと、民主主義がうまくいかなくなるということは、これから真剣に考えるべき課題でしょうね。

久保田 正志 ライター

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くぼた まさし / Masashi Kubota

1960年東京都品川区生まれ。経済系フリーライターとしてプレジデント社・東洋経済新報社・朝日新聞出版社などで取材・執筆活動を行っている。著書に『価格.com 賢者の買い物』(日刊スポーツ出版)。ペンネームで小説、脚本等フィクション作品も手がけている。

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