「結論ありき」でこそ民主主義が機能する理由 「不純なリベラリズム」が共同体維持を守る

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:デニーンがとくに問題視したのは、彼らがローカルなコミュニティーを重視せずに、より大きなステートを志向した点です。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院准教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

フェデラリストたちは、自己陶冶(とうや)した市民がローカルなコミュニティーを自己統治していくという形ではなく、統治の単位を広げて社会を多元化し、欲望と欲望を対立させることによって勢力均衡を作ろうという発想だった。「結局フェデラリストの意見が通って、アメリカはそういう国になってしまった」と嘆いています。

佐藤:独立戦争の際、広く読まれたトマス・ペインの『コモン・センス』では、アメリカは各州の緩やかな連合体として構想されていました。州の代表が集まって議会を作り、議長職は持ち回り。「イギリス王ジョージ3世の暴虐許すまじ!」を叫んで立ち上がったこともあり、大統領制の導入は、はじめのうち検討されていなかったんです。それでは独立した意味がないという感じだった。ペインと親しかったトマス・ジェファーソンもリパブリカンでしたね。

柴山:一方のフェデラリストは、「各州の上に連邦国家を作り、大統領を任命しなければ国としてまとまりが保てない」と強く主張したわけですね。彼らが重視していたのは通商と安全保障で、通商国家は外国から狙われやすい。だから安全保障をしっかりしなければいけない。そのためには国家として大きくまとまったほうがいいという発想だった。

中野:最初はマディソンたちもペインに近い考えで、東の旧植民地13州をコミュニティーごとの民主的な話し合い、タウンミーティングで統治しようとしたらしいです。ところが現実には乱闘騒ぎになってしまった(笑)。そこで彼らも、「これはだめだ。こんなやつらに任せられない。憲法を作らなきゃいけない」という考えに転じたと聞いています。

佐藤:フェデラリストとリパブリカンの論争は結局、決着がつきません。合衆国憲法は両者の発想を折衷させた妥協の産物です。この矛盾は今に至るも残っていますね。

過激化するアメリカのリベラリズム

佐藤:本書が注目を受けた背景として、近年アメリカのリベラルが過激化したことがあるでしょう。ソーシャル・ジャスティス・ウォリアーズ(社会正義の戦士たち、略称:SJWs)と呼ばれる人々が、自分たちの掲げる「自由」「平等」の概念に反するものすべてをやり玉にあげるようになった。

中野:エマンシペーション(emancipation:社会的、政治的束縛からの解放)ですね。

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