「結論ありき」でこそ民主主義が機能する理由 「不純なリベラリズム」が共同体維持を守る

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佐藤:とくに問題なのがジェンダーの扱い。「男はダメ、女はすばらしい」という形にしないかぎり、差別と見なされかねない。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(ともに集英社新書)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬舎新書)などがある。(撮影:今井 康一)

2010年代のブロードウェイを代表するミュージカルに『ハミルトン』があります。アレクサンダー・ハミルトンを主人公にしてアメリカ建国を描いた作品ですが、ハミルトン、ワシントン、ジェファーソンといった役を、黒人やヒスパニックの俳優が演じている。台本・作詞・作曲のリン=マニュエル・ミランダ(この人は男性です)は、女優が「建国の父」に扮しても全然かまわないと話していました。

:著書のデニーンは保守的なキリスト教徒だけあって、そういった傾向を強く批判していますね。進歩派リベラルは性的な解放を進めすぎて、ラディカルなフェミニズム、「自然な肉体からの完全なる自由」というような方向に行ってしまった、と。

一方で「リベラリズムの試みは少し前までは完全には成功しておらず、文化的な伝統が残存しており、そのおかげで社会が機能していた」とも述べています。

柴山:「リベラリズムの成功が今の危機につながっている」ということですか。

:「リベラリズムは、文化的な伝統や慣習を目の敵にして、徹底的に潰していく」という考えなんですね。著書に言わせるとデモクラシーも、実はある種の共通する慣習が残り、連帯意識があり境界線で区切られている一定の範囲内でこそきちんと機能するものなのです。これまではリベラリズム・イデオロギーの徹底が足りず、伝統文化的なものが残存していたからこそうまくいっていた。

ところがそういう文化をリベラリズムが破壊し、純化していったことで、デモクラシーが成り立たなくなってしまった。そういう認識です。

日本におけるリベラリズムの受容

中野:日本では社会契約論に代表されるリベラリズムこそ、西洋思想そのものという扱いですよね。

大学に入って、法学部で必修の憲法の講義を受けたとき、憲法の教授が「憲法の意義は個人を丸裸にして、国家と直接対決させることにある」などと教えておりました。フランス革命の日を記念日と言って喜んでいた人でしたが。

しかし、共同体から引きはがされてアトム化した個人は群れやすく、多数派権力になびきやすいので、全体主義国家が生まれるのです。これは、全体主義論の通説でしょう。

佐藤:アトム化された個人が、国家と対決して勝てるはずがない。その意味でリベラリズムは、強権的な国家支配への道を拓きますね。

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