安易に「人材の流動化」に走る日本企業の末路

日米間の「競争」に隠された巨大な不公平の壁

アメリカでは、DARPAの研究資金が、まだ実用化までの道のりが遠い基礎的な研究を下支えしてきました。まずはDARPAが基礎研究を支え、そこからよい結果が出れば企業家がスタートアップを設立し、事業化していきます。そして、さらにその事業化後の競争を勝ち残ったものが、大きなビジネスに育っていくのです。

このような「国家→民間」の循環が存在しているため、人材の流動性が高まり、企業が「手近な果実」をもぐ傾向が強まったとしても、アメリカでは次世代の果実を生み出す幹の太い技術が育まれているのです。

日本には国防関連の研究予算がほとんどないうえに、近年は大学の基礎研究の予算をどんどん削減しています。その点で、アメリカ企業に比して、日本企業は「巨大な不公平」を抱えながらイノベーション競争をしていることになります。

イノベーション戦略を立て直す

日本全体の研究開発予算のうち、国が支出する割合は20%を切っており、国防関連支出だけで48%もあるアメリカに比して、極めて低い水準にあります。

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基礎研究の担い手が誰もいないような状況で、日本政府が人材の流動化政策だけを推進すれば、どうなるでしょうか。人々はどんどん「身近な果実」をもぎはじめ、イノベーションのタネがまったくない社会になってしまうおそれがあります。

だからと言って、日本も国防関連の研究開発をしろと言いたいわけではありません。イノベーションのコスト負担のあり方は、国の歴史や国民の価値観、経済システムなどによって異なってくるのは当然です。

私が言いたいのは、このような社会構造の違いを理解せずに、表面的にアメリカのまねをして人材の流動性を高めてしまうのは危険だということです。アメリカとの社会構造の違いを前提にしたうえで、日本のイノベーション・システムの戦略的な組み換えを考えていく必要があります。

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