ポスト安倍最有力「菅首相」に問われる資質 「影の総理」菅義偉とは何者なのか(下)

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では、はたして菅は宰相の器なのだろうか。菅は安倍政権下で「黙々と首相を支える忠義の人」とのイメージを作ったが、実は衆院議員に初当選して以来、担ぐ総裁候補=仕える親分を次々と乗り換えてきた。

最初に入った派閥は当時の最大派閥である橋本派。橋本龍太郎内閣総辞職に伴う総裁選では派閥会長の小渕恵三ではなく、元官房長官の梶山静六を担いで敗北。すると今度は当時、政界のプリンスだった加藤紘一の加藤派へと移籍し、2000年の森喜朗内閣不信任案をめぐる「加藤の乱」では加藤に同調した。それが鎮圧されると、今度は反加藤の堀内派、その後の古賀派に移った。

【2019年8月18日18時13分注記】初出時の記事の古賀派に関する表現を上記のように修正いたします。

2006年の総裁選では派閥領袖の古賀に逆らって安倍晋三を担いで奔走。その功で第1次安倍内閣ではわずか当選4回で総務相に就任した。敗北続きの菅にとって初めての「当たり馬券」が安倍だったが、その安倍内閣はわずか1年で総辞職した。

その後の総裁選では、本命の福田康夫ではなく麻生太郎を担いでまた敗北といった具合で、20年余の議員生活は負け続きだった。その間、「世代交代」「脱派閥」をスローガンに元首相の森喜朗らに早期引退を迫った経緯などもあり、党内では長く異端児扱いで、ベテラン議員たちからは「裏切りの菅」「渡り鳥の菅」と陰口をたたかれ続けた。

乏しい政策実績、外交・防衛がネックに

一方で、この6年余、政権の大番頭として危機管理と官僚操縦では辣腕を発揮してきた。長期にわたる安定した政権運営は菅抜きには考えられないだろう。

それでは政策面での実績はどうか。自らが総務相時代に創設した「ふるさと納税」制度を今の安倍政権下で拡充したが、今や返礼品の過当競争や都市部の税収の大幅減など弊害の方に焦点があたる。携帯電話料金の4割引き下げや実質的な外国人労働者受け入れ枠拡大も菅が主導した代表的な政策だが、いずれも「拙速で、マイナス面への目配りに欠ける」といった批判も根強い。

何より「本人の最終目標が幹事長や官房長官だったので、外交・防衛問題に関する見識を持たず、海外の要人と会談しても話が続かない」(首相官邸筋)との評価が永田町では流布される。それが「菅首相」への最大の障壁だろう。官房長官を経て首相になった小渕恵三や福田康夫になぞらえる向きもあるが、小渕や福田は若い頃から外交や防衛の勉強を重ねていたという点で菅とはまったく異なる。

それでも今の自民党内の力学からすれば、菅が「ポスト安倍」の最有力候補であることは間違いない。それだけ自民党は人材が払底しているともいえる。

今のところ、安倍に総裁4選を目指す気持ちは本当にないという。だとすれば、菅自身が総裁選に立候補する決意を固めさえすれば、「菅首相」が誕生する可能性はかなり高い。

首相を目指してこなかった菅に日本の命運を託すことになるのか―─。それが菅本人の判断1つで決まってしまう状況になりつつある以上、われわれも菅という政治家の本質を冷静に見極める必要があるだろう。=文中敬称略=

中野 潤 ジャーナリスト

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なかの じゅん / Jun Nakano

ジャーナリスト。単著に『創価学会・公明党の研究』、共著に『徹底検証・安倍政治』(いずれも岩波書店刊)など。

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