「口の乾き」が招く健康被害を侮ってはいけない よくかんだり話したりしないと「唾液」が減る

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でも、薬の副作用・ストレス・生活習慣などによって、「口がつねに乾いている」、いわゆるドライマウスの状態になることは、誰にでも起こりうることなのです。 

「トイレに行きたくないから、あまり水を飲まない」という方がいますが、口腔外科医の私に言わせると、「口の乾きは死への近道」です。唾液が減って口の中が乾くのは、緊張など精神的な原因によることもありますが、血管内の水分が不足している証拠です。実は、体内の水分が20%失われるだけで死に至る可能性があります。4%失われると、疲労がひどくなり、尿が出にくくなるなどします。3%失われると、唾液が減って強い乾きを感じます。 

例えば体重65kgの成人男性の場合、水分は体重の約6割ですから、約39kgが水分です。水分39kgの3%は1.08kgで、水の1kgは1Lですから、唾液が減る目安の3%は、2Lのペットボトル半分くらい。それだけの水分が減るだけで、体に変調を来すということになります。「すごくちょっとだな」とは思いませんか? そうなんです、実は、私たちの体は、すぐに、あっという間に水分不足になりがちなのです。

そして、その危険をいち早く知らせてくれる兆候こそが、口の乾き、つまり唾液が減って口の中が乾燥した状態なのです。

唾液現象のリスクは「食べにくい」だけでは収まらない

高齢になると、窒息死が増えます。多くの高齢者が、食事をのどに詰まらせて人生の終わりを迎えるのです。その大きな原因の1つが、唾液が減ったことにあります。「唾液が出なくても、水で流し込めばよい」と思っているとしたら、それはとても危険な発想です。のどに詰まったお餅を水で流し込めず、さらに詰まらせてしまうケースも多発しています。よくかまずに食べものを口の中にどんどん入れる「つめ込み食べ」も危険です。口の中のものをなめらかに飲み込むためには、唾液の力が不可欠といえます。水では代わりにはならないのです。

窒息死だけではありません。高齢になると、肺炎にも注意が必要です。間違って気管に食べものや飲みものが入ってしまう「誤えん」による肺炎(誤えん性肺炎)もあわせると、年間13万2629人が肺炎によって亡くなっています(厚生労働省発表の「人口動態統計(確定数)」〔2017年〕による)。 

実は私の祖父も肺炎で突然亡くなりました。祖父が亡くなってから祖母は、どこか元気がないように見えます。2人は、すごく仲のよい夫婦でした。私も毎年、祖父に会えるのを楽しみにしていました。祖母のおだやかな日常の幸せも、私の楽しみも、急な肺炎が奪ってしまったのです。

もし気管に飲食物が入っても、若い人であれば、むせることで、多くの場合、気管から飲食物を出すことができます。しかし、高齢になって、のどの感覚が弱まる(反射が衰える)と、気管に飲食物が入っても、むせが出なかったり、出にくくなったりする危険性が高まります。

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