三菱系建機会社を勤め上げ起業した76歳の胆力 油圧ショベルから「竹林」に商機を見出した

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こうして佐野さんはまず高速竹粉製造機から作りはじめた。長さ4メートル、直径6~18センチの竹(主に孟宗竹)に対し、機械に超硬性カッターチップ(市販品を利用)28枚を取り付けることで粒度300ミクロンの竹粉を1日0.8~1トン製造できる。

製造機を作り活用方法を考案

全国の竹林は統計上16万ヘクタールとされるが、実際には侵食でその3倍にも拡大している。竹は地表下50~60センチにびっしり根を張り、豪雨時にはそれ以下に雨水を浸透させない。そのため地滑りや土砂崩れの原因にもなり得る。竹は「害草」なのだ(小杉山基昭著『竹を食う』の表現)。

竹林は竹材としての活用やタケノコの食用によって手入れされてきたが、近年、竹材はプラスチックに、タケノコは中国産に押されて放置され、今や竹林が他の樹林帯や里山を侵食、壊滅状態にまで追い込んでいる。

竹の猛威を阻止するには「竹は儲かる」が常識となるほど竹の経済価値を高める必要がある。そのための技術の前提がまず高速竹粉製造機なのだ。

竹粉の農業分野への利用としては次のような試験結果を得た。水稲栽培(玄米で40%の収量増加)、ホウレンソウの実証試験で堆肥と竹粉を併用することで収量、糖度とも最高値を記録した。またサツマイモと白菜の試験では化学肥料と竹粉の組み合わせで収量がそれぞれ1.2倍、1.4倍になった。農林水産省の補助事業として南あわじ市の有機栽培農家でレタスの栽培にも取り組み、収量13%増加、保存期間2週間への延長などの成績を示した。

畜産分野では黒毛和牛の子牛への竹粉給餌で好結果を得たし、2次破砕することで50ミクロン以下に微細化し、食品や化粧品、サプリメントに応用している。

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中でも注目すべきはプラスチックへの竹粉添加だろう。竹粉を50~70%の高濃度で溶融させることが可能と判明、その結果、プレス成形どころか射出成形が可能になり、曲げ弾性率が4倍に、荷重たわみ温度が1.5倍になるなど、目からウロコの結果を得た。

竹粉をプラスチックに混入できるなら、原料のナフサを節約できるほか、PLA(ポリ乳酸、植物由来プラスチック)に添加すれば、生分解性プラスチックの製造が可能になる。しかも原料として竹粉の使用量が大きいから、竹粉利用の最大手にもなりうる。

竹には製紙原料やシナチクへの加工など、他の利用策も検討されているようだが、佐野さんの竹粉利用が王道という気がする。川上から川下まで網羅し、活用分野の幅が広い。佐野さんが現役バリバリの後期高齢者であることは間違いなさそうだ。

(『ウェッジ』2019年2月号)

溝口 敦 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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みぞぐち あつし / Atsushi Mizoguchi

1942年東京都に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒。出版社勤務など経てフリーに。2003年『食肉の帝王』(講談社+α文庫)で講談社ノンフィクション賞を受賞。著書に、『詐欺の帝王』(文春新書)、『暴力団』(新潮新書)など多数。暴力団、半グレなど、反社会的勢力取材の第一人者である。

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