英ジョンソン首相誕生後のシナリオを徹底検証 新首相の戦術と、回避すべき最も怖い道

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ジェレミー・コービン党首率いる労働党も単独での政権獲得は難しい(写真:REUTERS/Neil Hall)

第4に、労働党が政権を奪取するが、単独過半数に届かず、自由民主党が協力する政権が成立する。この場合、国民投票の再実施を通じてEU残留の可能性が高まるうえ、連立発足により労働党の極端な政策主張が薄まる。

現在の世論調査から判断するかぎりは、保守党・労働党ともに単独政権を発足させることは難しい。離脱支持の有権者が多い選挙区では、保守党とブレグジット党の間で票が割れるため、労働党が政権を奪取する第4のシナリオの可能性が高い。

ただ、ジョンソン氏の首相就任で保守党はブレグジット党から票を奪い返すことが予想される。総選挙が行われる頃には、保守党の支持が回復し、第2のシナリオの可能性が高まっていると筆者はみる。近い将来の総選挙実施をにらみ、ブレグジット党に流れた離脱支持の有権者の票を奪還するためにも、ジョンソン氏が早期に離脱方針を穏健なものとすることはなさそうだ。

最も怖いのはブレグジット党の政権入り

怖いのは新首相への期待が失望に変わり、保守党の離脱支持者の奪還票が伸び悩み、第1のシナリオになる場合だろう。離脱が争点となる総選挙で、離脱方針で保守党が協力できる相手はブレグジット党以外に見当たらない。

ブレグジット党を率いるのは、かつて英国独立党を率い、保守党政権の危機意識をたきつけ、国民投票の実施に追い込んだナイジェル・ファラージ氏だ。英国独立党やブレグジット党に政権運営能力はない。だが、ファラージ氏のような真性ポピュリストに、英国の未来を占う離脱協議の主導権を握られるとすれば、これほど怖いことはない。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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