EU離脱へ英国メイ首相「最後の決戦」の切り札 解散総選挙で「穏健離脱」より「合意なき離脱」
筆者は3月15日付の東洋経済オンライン記事(『波乱の「英国EU離脱」は急転直下の3月合意も』)で、英国の欧州連合(EU)からの離脱協議は、急転直下の3月合意に向けて舞台が整いつつあると論じた。離脱派議員が協定案を否決し続けると、穏健な離脱や国民投票のやり直しの可能性が高まってしまうというという矛盾した効果を生む。そのため、与党・保守党内の強硬離脱派や閣外協力する北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)が政府案の受け入れに傾き、それでも足らない20票余りについては野党・労働党の離脱寄り議員が協力する可能性があるとの内容だった。
最後の一押しが必要であれば、4度目の投票を目指したり、テレーザ・メイ首相が退陣を条件に、合意の受け入れを呼び掛ける可能性も指摘していた。この点は指摘のとおりとなったが、離脱協議期限当日の3月29日に行われた3度目の合意受け入れ是非を問う採決は、賛成286・反対344で再び否決された。英国は新たな離脱期限に設定された4月12日までに、このまま合意なしで離脱するか、代替案を検討するために離脱期限の長期延長を求めるかの決断を迫られている。
筆者が読み間違えた点はどこか。賛成票と反対票の差は、初回投票の230票、2回目の149票から3回目は58票まで縮まり、与党議員の造反者数も初回投票の118人、2回目75人、3回目34人に縮まった。メイ首相が退陣カードを切った3度目の投票では、ボリス・ジョンソン元外相など強硬離脱派の中心人物も土壇場で政府案の受け入れに方針転換した。だが、DUP(民主統一党、北アイルランドの地域政党)の全10議員が最後まで政府案の受け入れ拒否を貫いたうえ、労働党の離脱派寄りの議員の協力もわずか5名にとどまった。
議会主導で「穏健離脱に向かう」との見方は甘い
議会は政府に代わって離脱協議の主導権を握るべく、代替案の検討を開始している。3月27日の8つの代替案の採決では、いずれの案も議会の過半数に届かなかったが、関税同盟に残留する案が賛成265・反対271の6票差、合意内容を国民投票にかける案が賛成268・反対295の27票差と、過半数に手の届くところにある。3度目の合意受け入れ採決が再び否決されたことを受け、4月12日までに代替案を一本化しなければ、「合意なき離脱」(ノーディール・ブレグジット)は避けられない。
議会は4月1日に再び代替案の採決を予定しており、今度は関税同盟を中心に過半数を上回る案が現れそうだ。これにより英国は長期延長と欧州議会選挙への参加とセットでより穏健な離脱に舵を切り、離脱問題は終息に向かうと考えてよいのだろうか。
筆者はそう思わない(メイ首相同様に諦めが悪いのかもしれないが)。メイ首相とその周辺は、3度目の採決が否決された後も、4度目の採決に向けて政府案受け入れでの説得工作を続けている。残る造反議員34名のうち、6名は国民投票のやり直しなどを求めるEU残留希望者で、残りの28人が頑なな強硬離脱派とみられる。58票差をひっくり返すには、さらに30人の協力者をみつける必要がある。もはや至難の業に思えるが、政府にはいくつかの説得材料が残っている。
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