EU離脱へ英国メイ首相「最後の決戦」の切り札 解散総選挙で「穏健離脱」より「合意なき離脱」

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おなじみボリス・ジョンソン前外相が新首相になるのか。おかっぱ頭から短く髪を切ったのはそのため?(写真:Reuters TV via REUTERS)

メイ首相は過去に任期満了後の2022年の総選挙に保守党党首として出馬しない意向を伝えている。前倒し解散時の総選挙に党首として出馬するかは明言していないが、離脱交渉の次の段階(離脱確定後の将来関係協議)を自身が率いることはないと発言しており、保守党はメイ首相の下で選挙戦を戦うことはおそらくないだろう。英国の法律では、議会解散後にどのタイミングで総選挙を行うかの明示的なルールはない。ただ、保守党の後継党首選出を待って総選挙を行うのか、ひとまず暫定党首を擁立して総選挙を戦うのかは、現時点では見通せない。

保守党の党首選出手続きは、党所属議員の投票で候補者を2人まで絞り込んだ後、決選投票は党員の郵送投票によって行う。メイ首相が党首に選ばれた2016年は、2人まで絞り込まれた段階で対立候補が立候補を取りやめたため、わずか2週間で決着した。党員投票まで進んだ2005年は2カ月余りを要した。

後継党首候補(すなわち後継首相に最も近い人物)の顔ぶれとしては、次のような名前が挙がる。①ボリス・ジョンソン元外相やドミニク・ラーブ元離脱担当相など強硬離脱派の中心人物、②2016年の国民投票でジョンソン氏とともに離脱キャンペーンを率い、最近では政府と離脱派の橋渡し役を果たしてきたマイケル・ゴーブ環境相、③国民投票では残留に投票したが、その後に離脱支持の姿勢を鮮明にしているほか、重要閣僚の立場で実績を積み上げてきたジェレミー・ハント外相やサジド・ジャビド内相、④EU残留派の支持を集めるアンバー・ラッド雇用年金相。

暫定首相の場合の有力候補としては、前述のゴーブ氏に加えて、メイ首相に近いデービッド・リディントン内閣府担当相、強硬離脱派のデービッド・デービス元EU離脱担当相など。

強硬派首相が誕生し「合意なし」離脱のおそれ

世論調査の一番人気は知名度抜群のジョンソン氏で、党員による決選投票に残れば首相の座は当確といったところだろう。最近髪を短く刈り込み、ポストメイへの意気込みと勘繰る向きもある。ただ、議員内に敵も味方も多く、議員投票の段階で戦略的に落とされる可能性もある。離脱をめぐる立場だけでなく、総選挙に勝てる党首を選ぶのか、党内融和を優先するかによっても、結果は左右される。保守党の一般党員の間では離脱支持が多数を占め、決選投票では離脱派の候補が勝利する可能性が高い。

強硬離脱派の首相が誕生し、長期延長とセットで離脱協議を続ける場合、これまで積み上げてきたEUとの合意内容の見直しや修正を要求する可能性がある。首相が交代したからと言って、英国の交渉上の立場が有利になるわけではない。EU側はこれまで同様に、「離脱協定の見直しには応じない」、「EUの一体性を守るため、いいとこ取りは許さない」との交渉方針を堅持しよう。協議はこれまで以上に紛糾する恐れがある。むしろ強硬離脱派の下で長期延長戦に入ってからのほうが、「合意なき離脱」のリスクが高まると考えるべきだ。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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