英ジョンソン首相誕生後のシナリオを徹底検証 新首相の戦術と、回避すべき最も怖い道

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派手な言動はすべて戦術(写真:REUTERS/Peter Nicholls)

強硬離脱派の支持を受けたジョンソン新首相は今後、どのような離脱案をEU側に要求するのだろうか。

前政権の離脱案の中で強硬離脱派が最も問題視したのは、北アイルランドの国境管理のバックストップ(保険)案だった。これは和平合意の趣旨に反しない国境管理の最終的な解決策が見つかるまでの間、一時的に英国全体がEUの関税同盟に残留するとの内容だ。強硬離脱派はこれを、半永久的にEUの属国になるおそれがあるとして拒否してきた。ジョンソン氏はバックストップの撤回とともに、技術活用による国境管理の解決を求めるとみられている。EU側はバックストップの撤回を明確に拒否しており、協議は平行線をたどることが予想される。

10月31日の離脱協議期限までの日程を確認しておこう。

英国議会は7月26日から夏季休会に入り、次に議会が召集されるのは夏休み明け後の9月3日となる。そこから2週間余り、議会を開催した後、秋に各党が党大会を開催するため、例年9月上旬から10月初旬にかけての3週間は再び休会となる。議会の再会から、EUと離脱協議での合意を目指す10月17・18日の欧州首脳会議までわずか10日余り、10月末の最終的な離脱協議期限まで20日余りしかない。

またもや政府と議会の攻防戦、膠着状態へ

強硬離脱派の首相が誕生したところで、議会の構成に変化はない。これまでの議会投票からも明らかな通り、議会では合意なき離脱の回避が多数意見となっている。そのため、合意なき離脱を排除しない政府方針に議会が歯止めを掛けることに期待する声もある。ただ、英国では原則として、野党に議会の審議内容を決定する主導権はない。合意なき離脱の阻止に向けた議会の介入は、あくまで法案に対する修正動議という形をとり、政府はその内容に法的に拘束されるわけではない。

政府は、合意なき離脱の阻止をもくろむ野党勢や与党内の残留派議員に、極力、投票機会を与えないようにすることが予想される。また、ジョンソン氏は組閣にあたって、合意なき離脱の可能性を排除する人物を閣僚に登用しない方針を示唆している。過去に合意なき離脱に反対してきた与党議員の一部も、ジョンソン氏に同調し、合意なき離脱の可能性を排除しないと主張している。

仮に議会が合意なき離脱を阻止する修正動議を可決したとしても、10月31日までに英国が離脱期限の再延長を要請し、EU側がそれを受け入れないかぎり、合意なき離脱を回避することはできない。再延長を要請するかは政府の判断によるもので、議会がこれを決定できるわけではない。

ただ、議会には首相の暴走を止める最終手段がある。それは内閣不信任案を可決し、合意なき離脱を目指す首相を退陣に追い込むことだ。

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