トランプに学ぶ「意識低い系」マーケティング 挑戦的な言葉遣いは「あえて」やっている?
トランプも下品な金持ちを演じながら、選挙戦では「アメリカを再び偉大な国にする」ぐらいには理念的なスローガンを打ち出している。それ以上に高尚な理念は言わない。言えないのかもしれないが、仮に「世界中の子どもたちの笑顔が見たい」などと言ったとしても、ウソくさいし、それによって支持を広げることはなかっただろう。
意識は少しずつ高くなるのが自然で、人々の共感を得る。反対に、「地球上でいちばん、たくさんのありがとうを集めよう」と言っている会社が社員に過酷な労働を強いていたりすると、世間から強く批判される。
トランプは細かいところでも意識の低い演出をしている。例えば、ハンバーガーなどのジャンクフードが好物だと口にする。日本の政治家がやりがちな、見え透いた庶民派アピールではなく、高級なフランス料理よりも、ステーキ、ポテト、ビックマックやクォーターパウンダー、コカ・コーラを愛している。大多数のアメリカ人はジャンクフードが好きであり、親しみを感じる。
しかし実のところ、トランプは健康には人一倍気をつかっており、酒やタバコ、コーヒーですら飲まないらしい。どちらが本当の姿なのだろうか。どちらも本当で、見せたいのはジャンクフード好きのほうなのだ。
いけ好かない共通の敵を設定する
トランプはわかりやすい「敵」を設定する。例えば、生まれもっての上流階級を「ラッキー精液クラブ」と呼んでバカにした。トランプも親の資産を受け継いでいるのだが、気取ったエスタブリッシュメントは敵で、われこそが庶民の気持ちがわかる成功者というポジションをとったのである。
業界の大物を敵に回す人間、顔の見えない権力や体制に立ち向かっているように見える人間は大衆の支持を集める。それにより、トランプはアメリカ人にアメリカを代表する経営者と思わせることに成功した。
人々がどんな人間に憧れを持ち、どんな層に反感を持つかを知り尽くしたトランプにしてみれば、エリート中のエリートであるヒラリー・クリントンは、くみしやすい相手だった。
こうしてみると、トランプはあえて道化を演じていると思われないだろうか。かつて、喜劇俳優のチャールズ・チャップリンは映画『独裁者』でドイツの独裁者、アドルフ・ヒトラーに扮してナチスを批判した。世界中の人は、チャップリンがヒトラーをまねたと思っているが、日本の評論家、草森紳一は、実はその逆だと指摘している。
チャップリンとヒトラーは同い年(誕生日は4日違い)だが、世に知られるようになったのは、チャップリンのほうがかなり早い。チャップリンの映画デビューは1914年で、1918年には世界的スターに上りつめた。