トランプに学ぶ「意識低い系」マーケティング 挑戦的な言葉遣いは「あえて」やっている?
実際に、トランプは自らの名前を冠した事業をいくつも立ち上げてきたし、世界各国の不動産業者に「トランプ」ブランドの名義貸しを行い多額のライセンス収入を得ている。お金を得たうえで、自らのブランドが広まる。トランプブランドの商品は、スーツやネクタイ、ステーキや水にもおよぶ。サンリオのキャラクター“仕事を選ばない”ハローキティと同じ戦略である。トランプがキティちゃんと違うのは、虚栄心が大きいことぐらいである。
プロレスの達人トランプがツイッターを使う理由
トランプはプロレスの達人だ。カジノホテルを経営していたトランプは、プロレス団体との縁が深く、アメリカ最大のプロレス団体WWEに登場したこともある。達人と言っても、もちろん肉体的に強いわけではない。人々を魅了するプロレスのロジックを知り尽くしているという意味だ。
プロレスは単純な格闘技ではなく、観客の目を意識したファイトだ。見世物と言ってもいい。トランプはヒラリー・クリントンとの舌戦のはるか前、不動産王として有名になった頃から、マスコミを介して言葉のプロレスを繰り返してきた。
元ニューヨーク市長のエドワード・コッチとの低レベルな罵り合いは有名で、「トランプは豚」「マヌケなコッチ」「ちっぽけな人間」「クズ」など小学生レベルの応酬が新聞で報じられた。その20年ほど後には、トークショーの司会者でコメディアンのロージー・オドネルと舌戦を繰り広げて注目を集めた。
マスコミは下品なトランプを取り上げることで部数や視聴率を伸ばし、トランプはさらに有名になっていく。WIN-WINの関係であり、一種の炎上商法とも言えるだろう。
人々は、くだらないとあきれつつも、本能的には気になってしまう。自分が安全圏にいるケンカ、闘争は意識の低いレベルで人を惹きつけるからである。トランプは仕事などでは関わりたくはないが、距離を置いて見ている分には面白いオジサンなのだ。
マスコミとトランプの関係もプロレスになりがちだった。女性関係など、スキャンダルにまみれたトランプはわかりやすい悪役であった。長年にわたり悪役を演じてきたので、面の皮の厚さは相当なものだ。だから、大統領選でいくらマスコミから批判されても効果はなかった。
イメージダウンは落差がないと起こらない。スマートなイメージを持つ政治家なら、女性問題や金銭問題といった負の側面を暴かれると失墜するが、トランプには効かない。
いくらの政治家としての資質を問われようともトランプの支持者は、「ダメな部分はとっくに知っている。でも、あえてやらせたい」という気分だったのだろう。普通はスキャンダルになる女性問題、金銭問題も、トランプは前から知られており、いわば「身体検査」済みなのだ。女性やお金に汚い、は意識の高さから見れば欠点だが、ある意味で人間らしさでもあり好感度につながることもある。さらに、不良が捨て猫を拾うと好感度が上がるように、ポジティブに働く。