外国人が驚いた日本の「魚料理」の当たり前 魚焼きグリルや昆布を使う技術に驚嘆

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中でもシアトルなど西海岸の人たちは意識が高く、「乱獲を防ぐためには、養殖の魚を食べればいいの? でも、それも体に悪いと聞いているし、何を食べるのが正しいのかわからない」「サケを食べるたびに、(それをエサとしている)シャチを殺しているのではないかと心配になる」という声が寄せられたという。

対して、フリン氏も住んでいた内陸の中西部は「悪い状態の魚はすべて捨てられてしまうことで有名」なほど、魚慣れしていない。「スーパーで魚を買ってきたけど、家に帰ってきたらなんか臭う気がする。家がくさくなるから捨ててしまった……という経験からちゃんとした魚を選んだり、調理したりする自信をなくしてしまっている人が少なくないのです」(フリン氏)。

丸ごと買えば生きものだったことを意識できる

では、より魚とうまく付き合うにはどうしたらいいのか。1つは、乱獲の現状を知り、意識を高めることだろう。フリン氏はこれについて規模の巨大さで知られるアメリカのモントレーベイ水族館にメール取材を行っており、「魚介類の観察」というプログラムがあると回答を得た。「この魚は『青信号』なので好きなだけ食べられます。この魚は『黄信号』なので食べるときは注意が必要。この魚は『赤信号』で、乱獲されているので食べるのを避けたほうがよいでしょう」といった表示をしているのだそうだ。

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また、フリン氏自身は料理を教える際、「例えば鶏を丸ごと買うことをすすめています」と話す。「そうすると、これがもともと生き物だったと意識できるうえに、低コストだからです。魚や動物、たんぱく質について、考えを改めてもらわなければいけないと思います」。

フリン氏は、魚大国の日本の食文化の奥深さを、外からの目で教えてくれた。塩であらかじめ水分を抜くことで臭みを抜き、味を引き出す基本や、たいていのキッチンにあり、塩焼きの魚をパリッと塩焼きにする魚焼きグリルは、独自の積み重ねで生まれた知恵だったのである。

しかし同時に、日本は諸外国に比べて漁獲制限が進んでいないという指摘もある国だ。漁業者の高齢化が進み、将来の漁業が安泰とは言えない状態でもある。

食べる側の消費量も減少傾向にあり、農林水産省の調査によると、消費量のピークだった1988年に比べ、2016年には6割強まで減っている。FAO(国連食糧農業機関)の調査でも、2005年まで年間1人当たりの魚介類の消費量世界一だったのが、2013年には7位にまで転落している。

今や魚は肉より割高なたんぱく源であり、買い置きしづらい食材であることもあって、仕事を持つ忙しい人が敬遠しがちになっている。誇りを持つべき文化が衰退する危険にさらされていることに対し、私たちも意識的になる必要があるのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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