マザーハウスが問う、お客様との新しい関係 お客様はモノづくりの主人公になれる!

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お客様に「主人公」になってもらう

ここでもう1点、プロセスの共有をお客様と行った、ひとつのアクションを紹介させてください。

私たちが、もう一歩、できたらいいなと思っていることは、そのプロセスの中でお客様に主人公になってもらうことです。私たちもいろいろと苦しんでいるのですが、ひとつのアクションを紹介いたします。

マザーハウスが最近、手掛けた商品開発のプロジェクトで、キャンサーソリューソンズさんとの乳がん経験者向けショルダーストラップの開発があります。キャンサーソリューソンズさんは、働く方々全員がガン経験者で、ガンに対する啓蒙活動などをメインに行っている会社です。

「胸の部分にバッグのひもが当たると痛い」

「手がしびれて、ファスナーが開けられない」

実は、乳がん患者の悩みの2番目はバッグのことだと聞いたのです。すぐにキャンサーソリューソンズさんと商品開発を一緒に行うことにしました。

9カ月の間、10人の乳がん経験者の方々と共に座談会を開き、サンプルの使用を通してバッグとストラップの開発を進めました。そして、その状況を逐一、ホームページにアップしていきました。

作っているときから、実際の患者さんから期待の声を多く聞きました。その声が、作り手の私たちにとっても強い力になりました。

でも、正直に言えば、そんなに数が売れるとは予測していませんでした。どうしても、一般的な商品ではない分、それほどマーケットが大きくないだろう、と。しかし、結果は3カ月で200個を超える大ヒットになりました。

このプロジェクトを通してわかったのは、モノづくりにおいても「お客様が主人公になれる」ということです。商品開発をしている途中、とても印象に残ったのは、乳がん経験者の方々の楽しそうに議論する姿でした。お客様しか持っていない「苦しみ」や「経験」が商品としてカタチになっていく、そのプロセスを主人公として楽しんでいただけている、そんな気がしました。

そして、「主人公」同士が共鳴するように、多くの乳がん経験者の方にこの商品が届いていきました。それだけではありません。乳がん経験者の方々に優しい商品は、一般の方々にも優しい商品なのです。大勢の方がそのプロセスと商品に賛同し、購入していただきました。

お客様に主人公になっていただければ、お客様自身が自分の経験として、多くの方々へ「商品」を伝えていきます。私たちが「モノを届けたい!」と思わなくても、お客様が届けてくれるのです。これこそがまさに、お客様に「プロセスを届けること」だと感じます。

今、「モノの売り方、買い方」の議論をしたい

すでにモノにあふれた社会の中にいる私たちは、モノを買う意味を失いかけています。モノが持つ機能のためにモノを買うという点においては、もう十分すぎるほどのモノに囲まれているのです。

これは、売り手と買い手の関係性、「モノを売る」という行為そのものに対して、新しい考え方が必要な時代が来ていることを意味しています。また、「モノの売り方」を考えるだけではなく、一個人として「モノの買い方」を考えることが必要な時代でもあります。

第1回は私たちマザーハウスの例を書かせていただきましたが、次回以降はさまざまなケースを通して、「モノにあふれた時代のモノの売り方、買い方」を議論していきたいと思います。

山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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