アートで「美意識」を鍛えるための具体的方法 山口周さんのプログラムに同行してみた

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野田英夫の油彩画「サーカス」を「対話鑑賞」する。近づいたり、離れたりして、まずはじっくり見る(写真:筆者撮影)

あるグループは、3人の人物が描かれた絵画の前に集まった。作者、題名、制作年などの情報を見ないで、黙って30秒ほど眺める。そして「第一印象はいかがですか?」とガイドスタッフに促され、5人のメンバーが次々に口を開いた。

「3人の関係性がわからない。家族なのかな」
「一緒にいるけど視線がバラバラ。離れている感がある」
「最初に目に入ったのが真ん中の女の子。私が作ったストーリーとしては、左にいるおじさんにとって重要なイベントに、女の子をおめかしさせて連れてきたけど、彼女は早く帰りたいと思っている。喜んでここにいる感じがしない」

独創的なストーリーを聞いて、場の空気がなごむ。

「真ん中の女の人は何歳に見えますか?」とガイドスタッフが尋ねると、小学6年生、14歳、思春期前半、20代と、いろいろな答えが返ってきた。
「明らかに3人は仲が悪いので、左の男性と右の女性が親子で、真ん中は新しくやってきた若い奥さん。奥さんは真っすぐ前を向いていて、2人を支配している感じ」

と、別の物語が披露され、笑いが起きた。

絵の感じ方は「時間」までまったく違う

「いろんなことが読み取れますね。時間はいつごろですか?」とガイドスタッフ。
「背景の空と海の色で朝かなと思いました。夕方だと暖色系になるから」
「私は顔にかかる光の感じから昼間だと思う」
「右のお姉さんの髪が乱れているので、一仕事終えた後の夕方かな。あ、『サーカス』というタイトルが見えちゃったんですけど、曲芸をしたあとじゃないかと」
「サーカスと聞いて、だいぶ方向性が変わりました。真ん中の少女は孤独を感じていて、逃避したいという欲望がある。少女の目の位置から上の背景が海になっている。開放的な海に逃避したいけど、足元に重たい鉄アレイがあって止められている」
「この絵から楽しさとかうれしさを感じますか?」とガイドスタッフ。みんなは首を振り、不安、孤独、怒り、悩み、モヤモヤと答えた。
「どうしてですか? 色はきれいじゃないですか」
「明るい色だけど、温かみはないですよね」
「後ろにいる犬にも違和感がある」
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