伊勢丹発「百貨店SPA」、他人任せではもう売れない
どうすれば女性が洋服を買ってくれるのか--。先の見えない不況で、本来最も消費意欲が旺盛な若い女性さえ、財布のひもを固く締めてしまった。
百貨店不振と言われる中、収益柱である婦人服の低迷は特に著しい。2008年の全国百貨店売上高は前年比4・3%と落ち込んだが、婦人服は同6・7%減(日本百貨店協会)と目も当てられない。売り上げ規模では1985年以来の低水準だ。年が明け、商況はさらに悪化。セールでは再値下げ、再々値下げと繰り返しても、店頭の商品はなかなかはけなかった。
一方で、同じ婦人服でもユニクロ、H&M、ルミネなど、まだまだ好調な店があるのも確か。こうした売り場に共通しているのは、値頃な価格、それに見合ったそれなりの品質、流行を適度に取り入れたスタイルやアイテム。アパレル関係者が言い放つ。「残念ながら、そのすべてが欠けているのが、今の百貨店だ」。
平場に染みついた限界「もっと格好よくしたい」
だが、そんな百貨店でも、これまでの枠組みを取り払うような取り組みが、小さいながらも始動している。その先導者が、あの“ファッションの”伊勢丹。業界一のバイイング力、企画力を武器に「ブランド」「レア」「限定」「コラボ」で成長してきた伊勢丹で、今度は、「コスト」「バリュー」に向けた挑戦が始まったのだ。
その舞台は、20~30代向け婦人服売り場「ニューズスクエア(NS)スタイリング」。ブランドごとに壁で区切ったインショップ形態の売り場に対し、ここはノンブランド商品による品ぞろえ型の“平場(ひらば)”だ。01年以降これまで、新宿本店以外の支店と系列百貨店で、店頭オペレーションを共通化して展開してきた。
平場は本来、百貨店が自らの目利きと編集力によって他店との差別化を図るべき売り場。NSスタイリングは、セントラルバイイングで仕入れのボリュームを持たせることで、伊勢丹らしいファッション性を重視しつつ値頃感のある品ぞろえを実現する狙いの売り場だった。ところが実際は、価格はもちろん、ファッションにおいても衣料品専門店に見劣りしていた。
売り場に並ぶ商品は、確かにインショップ売り場のブランド商品より安い。が、実は仕入れ値も安い。百貨店は、売れ残った商品をメーカーに返品できるが、メーカー側はそのリスクを価格に上乗せしなければならない。「百貨店で1万円弱で売るには、消化率を考えて2000円で作らなければならない。ユニクロなら、2000円で作ったものは4000円で売れるし、メーカー原価2000円ならユニクロは1000円でも作れる」(メーカー関係者)。
結局、メーカーは少しでもスケールメリットを出すために、ラベルを替えてほかの百貨店にも持ち込む。NSスタイリングは、ほかの百貨店の平場よりはファッション要素を取り入れてはいたが、「実際、同じ商品が別の百貨店の平場に並んでいたなんてことはよくある話」(アパレル関係者)という。しかも、アパレルメーカーは各社とも業績悪化で萎縮気味。少しでも在庫を残したくないから型数や色展開を絞り、新たな提案も控える。商品の新鮮味が消えるばかりだ。
「それでは絶対買ってもらえない。平場はもっと格好よくならないのか」。08年4月にNSスタイリングのバイヤーに就いた櫻井俊晴氏は頭を抱えた。たどり着いたのが、従来の百貨店にとって“常識外”だったものづくりだった。ファッション性と、専門店にも負けない値頃感の両立。「自分たちで全部できるようなビジネスモデルを作ればいい」。