伊勢丹発「百貨店SPA」、他人任せではもう売れない
大きなリスク抱えつつ現場も「思い」を共有
08年8月、千葉県の研修所に全国から販売スタッフ200人超が集結した。一同は真剣なまなざしで、前で話すデザイナーに注目する。「もちろんトレンドは意識するけど、かわいいモノも好き。30歳前後って、そんな迷いのある時期だと思うんです」。デザイナーが、自らの商品に込めた思いを語り始めると、スタッフたちは一斉にメモを取る。
一品ずつの商品説明が終わると、今度は矢のように質問が飛んできた。「今年はこのくらいの丈が流行だと聞いていますが、お客様にどうお勧めすればいいのでしょうか」「このスカートは、むしろこんなふうにコーディネートしてもいいかと思うのですが」。参加したデザイナーはスタッフたちの熱意に圧倒された。「現場の方々が作り手と思いを共有して、商品に愛情を持ってくれた。こんなことは、ほかの百貨店では経験したことがない」。
こうして生まれた08年秋冬商品は、9月末の広告掲載から、1日に20~30件もの問い合わせを受け、完売商品が出るほどの人気を集めた。08年10月といえば、全国の百貨店で婦人服の売り上げが前年比9・9%減と大きく落ち込んだ時期である。
ただ当然ながら、百貨店が川上に手を出せば、大きな在庫リスクを伴う。売れ残っても返品できないうえ、協力デザイナーや工場にカラ仕事をさせたときの補償もない。一方で、百貨店の命である品ぞろえはカバーしなければならない。そのためには、平場には従来型の商品群も残しておかなければならないし、精緻な商品計画が欠かせないのは確かだ。
3月から、NSスタイリングの店頭に新しい春夏商品が並ぶ。各社でリストラが相次ぎ発表され、苦戦を続けてきた地方百貨店の資金繰りはいよいよ正念場を迎えている。百貨店業界が瀬戸際に立たされている今、伊勢丹の2月上旬の研修会では、前回以上に販売スタッフに熱意がこもっていたという。試験官である女性客たちの支持は得られるだろうか。古い殻からの脱皮を目指した決断が、評価のときを待っている。
(堀越千代 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら