青森―福島「潮風トレイル」はどんな歩道なのか 被災地をつなぐ道沿いに始まる新たな試み
女性は、「何度も来て、最終的には種差海岸まで行き、手術がうまくいって来年になったら、久慈まで行きたい」と話した。短い区間とはいえ1人で歩いて大丈夫なのだろうか。「夫は、ついてきませんもの。『行くわけないべ』って言うんですよ」。でもよく聞けば、車でどこかで待っていて、最後はピックアップしてくれるという。なんと優しい。
何度も来ているらしく、女性は、道が脇にそれている場所を指し、「ここから先は、満潮のときには海になる道なんですよ」。はるか向こうに見える木造の建物を指して、「あそこの小舟渡という店はコーヒーがとってもおいしい。ラーメンもいけます」と貴重な情報も教えてくれた。私たちの脇を、白いプラスチックバケツを下げた地元の男性が通った。バケツの中には、ウニがいっぱい入っていた。
海沿いの道は続き、要塞に似た葦毛崎展望台を過ぎたころには、海のほうから強い風と霧が湧いてきた。足元には、黄色いニッコウキスゲ、濃い紫のアサツキ、薄い紫のエゾフウロなどさまざまな花が咲いている。ウグイスをはじめ、鳥の声もにぎやかだ。
そのうち白砂の先の海は煙って見えなくなった。砂地が続き、松林の中を抜けた。漁港関連施設の敷地内は鎖で囲われているが、「歩行者は通り抜けできます」という札がかかっている。鎖の下をくぐり、とにかく進む。
アップダウンの激しい遊歩道を最後に、種差海岸の天然芝生地にたどりついた。足元はアスファルト、砂利、砂、土と変化し、野趣に富んだ景色が展開した。
ルートの一部は、地元の小舟で行く
1025キロメートルを歩く道の中には、地元の漁業関係者の小舟で行く部分も組み込まれている。東松島市の宮戸地区と塩竃市の浦戸諸島を結ぶ約4キロメートル。宮戸地区と浦戸諸島は隣り合っているが、行政区が違う。そのため、ここを行き来する公営航路はこれまでなかった。潮風トレイル全線開通に伴って、新たな仕組みが作られた。
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