青森―福島「潮風トレイル」はどんな歩道なのか 被災地をつなぐ道沿いに始まる新たな試み
宮戸地区で、寒風沢までの小舟ルートに協力する漁師は4人。その1人、櫻井晋さん(46歳)は、地区で最若手。2番目に若い漁師は18歳年上という。この日、客6人が乗れる漁師舟に知人と子どもの親子連れを乗せ、観光客相手のツアーの“練習”をした。私も便乗させてもらった。
身長190センチメートルという巨体の櫻井さんは、祖父も父も漁師で、刺し網や素潜り漁、カキ漁を行い、知人に頼まれれば釣り舟も出している。一般の観光客に呼びかけ、「松島湾で遊ぶ」というツアーをしたい、とかねがね思っていた。
「松島湾には、停止した時間というのがあるんですよ。波がなく、海面が鏡のようになって島々を反射し、陸地が全部逆さに映る。白い岩肌が、夕陽に照らされて真っ赤になるときもある。手を休めたとき、まわりをふっと見渡すと、めちゃくちゃすばらしい。ああ、ここにいてよかった、と思う。宮戸には、崖の下など、舟でしかいけない砂浜もある。そういう松島湾の時間をじっくり楽しんでもらいたい」
櫻井さんは、自分のカキのいかだに舟をつけ、釣り下がったカキを見せてくれた。「これは昨シーズンに取り忘れた、というか、わざと取らなかったカキ。大きくなっておいしくなったところを食べようと思って」。
舟に乗せてもらった子どもたちは、浅瀬で箱眼鏡をのぞき、アマモが生えている様子などを見て、大喜び。しまいには、舟から飛び降りて、遊び出した。
櫻井さんは、潮風ルートの小舟とは別に、もっと時間をかけた本格的なエコツアーも計画中。東松島観光物産協会はこの夏、櫻井さんの企画をはじめさまざまなツアーのメニューを示し、一般の観光客に参加を呼びかける予定だ。
加藤則芳さんの夢
1枚の写真がある。2012年9月に撮影された。
車椅子に乗った紀行作家、加藤則芳さんの瞳は輝き、顔の表情は引き締まって生き生きとしている。加藤さんを囲むのは、環境省のレンジャー(自然系技官)5人だ。向かって右端は渡邉綱男さん(63歳)で、その前月に退官したばかり。この日、5人は病床の加藤さんを訪ね、みちのく潮風トレイルづくりの進捗状況について、写真を見せながら報告した。
加藤さんは出版社勤務の後、八ヶ岳で暮らし、『ジョン・ミューア・トレイルを行く』『メインの森をめざしてーアパラチアン・トレイル3500キロメートルを歩く』など数々の著作がある。自然保護の思想を紹介し、日本の国立公園についての分析や批評を雑誌や専門誌に寄せた。レンジャーたちは、国立公園の現場を加藤さんと一緒に歩いたり、助言を受けたりしていた。
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