アップル「スマホ値引き規制」に抱く強い危機感 今後iPhoneは「定額制」になるかもしれない

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つまり、すでに発売から2年が経過しようとしているiPhone 7であっても、先述の割引条件の緩和には当てはまらない。さらにそれ以前のiPhone 6sやiPhone SEなどの端末も、再生備品、中古品などが格安SIMとの組み合わせなどで人気があり、調達が続いていれば、大幅な割引が認められる条件にも当てはまらなくなる。

通信会社を通じて販売されているiPhoneについては、結果的にすべてが、2万円が割引上限となる規制に引っかかることになる。この点については、アンフェアな状況を作り出したと指摘せざるをえない。

日本での販売強化策は

2019年に入ってから、アップルはiPhoneの売上高を前年比15〜17%の幅で減少させており、「iPhoneの減速」が明確となった。また米中貿易戦争の中で、多くを中国で生産しているiPhoneは、夏以降、中国側のカードになることも覚悟しなければならない。iPhone主体のビジネスを展開しているアップルにとっては、ウェアラブルやサービスの成長など、収益構造の転換を図るが、売上高の6〜7割を占めていたiPhoneの穴を埋めるまでには至っていない。

日本市場で5割のシェアを誇るiPhoneについて、ハイエンドから併売されている過去のモデルまで、価格の面で競争力を失うことになれば、日本市場におけるビジネスに大きなダメージを被ることは避けられない。おそらく2019年の9月末にも新型iPhoneが登場するとみられるが、アップルが対策をするとすれば、新端末が出る9月か、テコ入れ時期となる4月に行われるのではないかと予測できる。

アップルに打つ手はあるのだろうか。

1つは、アメリカのように、アップル自身がiPhone販売により力を入れていく点だ。iPhone Upgrade Programは、端末料金を24分割して毎月支払っていくが、12回支払いが終わった段階で新しいiPhoneに乗り換えることができるプランだ。iPhoneはSIMフリー端末で、どのキャリアでも利用でき、アップグレードする際には画面サイズや容量などを変更することもできる。

結果的には毎年iPhoneを乗り換えたいユーザーにとって、端末は手元に残らないが、半額で最新iPhoneが利用できるようになる。さらに、修理金額を提言させるApple Care+も自動的に付帯となっており、製品として購入されるiPhoneに、サブスクリプションサービスのような側面を作り出している。

アップルにとっては、買い換え周期が長期化していく中で、毎年iPhoneを買い換えるユーザー層を開拓することにつながる。こうした仕組みを、日本のApple Storeや量販店、代理店などを通じて提供することができる。端末の販売主体が通信会社ではなくなる点は、通信サービスと端末の分離の観点からもよいかもしれない。

またアップルは資源リサイクルを進める環境施策として、「Apple Trade In」プログラムを日本でも提供している。例えばApple StoreでiPhoneを購入することを条件に、iPhone X 256GBの場合最大58600円で下取りを行っている。こちらも、通信事業者ではないアップルによるサービスであるため、先述の2万円という制限に関係なく、有利にiPhoneを乗り換えられる。

もう1つは、価格戦略だ。併売されているモデルの販売をより延長して価格を下げていくことで、iPhoneの格安モデルをラインナップするという戦略を採ることができる。言い方は悪いが、iPhoneに対してまだ値下げ余力が大きく残っているということだ。

しかも、ソフト開発面で、そうした施策を支援できる「秘策」が盛りこまれていることにも注目だ。

秋に公開されるiPhone向けの最新ソフトウェアiOS 13で、アプリ起動の高速化、最大半分までのアプリサイズの縮小を実現する。プロセッサが最新モデルよりも劣り、保存容量も小さな過去のモデルでは、アプリの実行速度を向上させ、またよりたくさんのアプリを保存できるようになる。現在約5万円で併売されている2016年モデルのiPhone 7を、2019年の秋以降もさらに値引きしてラインナップに残すことで、競合に対抗できるiPhoneを用意することができる。

もしこのようなプランが現実化し、アップルから低価格端末をラインナップに残す施策を引き出すことができれば、総務省の施策はある種「成功」と見ることができる。ただし、もしiPhoneの勢いを止めようという意図があるなら、それは成功しないだろう。

3年前のiPhone 7でも、処理能力は依然として高く、実効速度やプライバシー性能を高めた最新ソフトウェアが利用できるアドバンテージは最新端末として共通だ。そして日本では人気となったブランドもある。iPhoneの値下がりが引き出されれば、Androidスマートフォンにとっては、より厳しい状況に追い込まれることになる。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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