「そんな人材派遣は必要ないし、私はそこまでして人数合わせをしたくない。どんなに少ない人数でも、私の結婚を心から祝福したいと思ってくれる人たちに来ていただければ、それでいいんじゃない?」
その話をした3日後に、「この婚約は解消したい」というLINEが来た。
「LINEで終わりにするのではなく、会って直接言ってほしかったです」
ただ佳代子が気がかりだったのは、35歳の娘の結婚がやっと決まって喜んでいた両親を、がっかりさせてしまうことだった。しかし、婚約が白紙になったことを両親に告げると、がっかりするどころか、親は安堵の表情を浮かべたという。
母が言った。
「康晴さんがウチにご挨拶に来てくださったときは、一流会社に勤めるエリートだし、いい結婚相手に巡り合ってよかったと思っていたの。でも、ご両親の話を聞くにつけ、そんな家に嫁いで大丈夫か、お母さんは正直不安だったのよ」
父は言った。
「もらった結納金は、明日、現金書留か銀行振込で返してしまおう。なんならもらった指輪の代金もお父さんが一緒に振り込むぞ」
その言葉を聞いて、涙があふれてきたという。両親もこの結婚に不安を抱いていたのだ。佳代子の気持ちは、婚約解消を同意することに振り切れた。
新たな結婚、入籍。でも、そこがスタートライン
辛い婚約破棄を乗り越え、お見合い活動を再開し、出会ったのが裕太だった。裕太は大手メーカーの営業職で、青森の出身。挨拶に行くと、近所でとれたという野菜や果物や魚貝類でもてなしてくれた。
「こんな田舎までよく来てくださいました。東京みたいに気のきいた食べ物はないけれど、今日はお腹いっぱい食べていってくださいね。まあ、本当に裕太はいいお嫁さん見つけたね」
かっぽう着を来た母親は、気さくな人だった。父親は、顔を真っ赤にしながら、おいしそうに酒をあおっていた。そして何よりよく笑う家族だった。
佳代子は、私に言った。
「前のことがあったから、ご実家に行くのは不安でしたけど、裕太さんのご両親にお会いして、安心しました」
また、婚約破棄していたことも、どういう経緯で婚約破棄に至ったかも、佳代子はすべてを裕太に話していた。その気持ちを裕太は汲んで、彼女の不安を取り除くために結婚式を挙げるよりも、まずは入籍を先にしてくれた。
事務所に結婚の報告にやって来た佳代子は、幸せいっぱいの笑顔だった。裕太も、「ここがスタートですから、2人で力を合わせて頑張っていきます」と私の前で爽やかに言った。
2人を外まで見送ったら、歩きながらどちらからともなく自然と手をつないだ。その後ろ姿が、微笑ましかった。
悲しみを乗り越えてつかんだ幸せ。本当におめでとう!
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