両家の挨拶を済ませ、ダイヤの婚約指輪ももらい、結婚式の具体的な話を進めていくうちに、雲行きが怪しくなっていった。そして、康晴から、「婚約は白紙にしたい」という申し出をされた。
恋愛で、好きだった相手からフラれるのはつらい。しかし、生涯をともにしようと決意した婚約者から婚約を解消されるのは、失恋よりももっと痛手が大きいだろう。婚約破棄は、佳代子の心に深い傷を残した。
いったんは成婚退会したものの、結婚がなくなった佳代子は、私のところに戻ってきて、再びお見合いを始めた。
いくつか見合いをしたが、断ったり断られたりで、なかなかうまくいかなかったが、裕太と見合いをしてからの交際は順調だった。そして、真剣交際に入ったのだが、関係がより密になっていくと、「今はうまくいっているけれども、また振られてしまうかもしれない」と不安を口にするようになった。
あるとき裕太から、「今度のデートは、僕の部屋に遊びに来ませんか?」と誘われたことがあった。
「もう結婚を前提の交際に入っているんだから、遊びに行ってみたら? 彼の暮らしぶりもわかるし、どんなものが好きなのか嗜好がわかるんじゃない?」という私に、佳代子は、こんなことを言った。
「部屋に行ったら、男女の関係になるかもしれないじゃないですか。男性って、そういう関係になると、手に入れたいと思って必死になっていた気持ちのテンションがいったん下がるって言いますよね。釣った魚に餌をやらなくなるというか。そんなことで結婚が先延ばしになったり、結婚する気持ちがなくなったりしたら嫌だなって。彼の部屋に行くのは、もう少し彼の気持ちが結婚に向かっているのがわかってからにします」
1年前の婚約破棄が、相当なトラウマになっているようだった。
1度目の婚約が破棄されたきっかけ
では、なぜ最初の婚約者、康晴との婚約が破棄になったのか?
康晴は、都内の大手金融機関に勤めるエリートだった。真面目一徹で、女性を喜ばせるような気のきいた言動ができるタイプではなかったが、その堅物ぶりが、女子校育ちで恋愛経験の少ない佳代子には、安心できる相手だった。
「チャラチャラしたところがない誠実なお人柄だし、結婚しても浮気の心配はなさそうです」
プロポーズをされ、それを受けたときには、私にこんなことを言っていた。そして、成婚退会し、退会した翌月には、2人で私のところに挨拶に来てくれた。
お見合いの立ち会いに行ったときに一度見かけていた康晴だったが、結婚を決めたことが自信につながったのか、半年前よりもどっしりとした男としての余裕と落ち着きを漂わせていた。
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