「つながり」なきサブスクリプションは失敗する 収益化ではなく「ユーザー価値」の問題だった

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売り切りモデルの「企業有利」から抜け出ておらず、うまくいくはずがないのです。会員制ビジネスをしてもうまくいかない、消耗品の定期配送をしているが解約が多発している、なぜかやればやるほど赤字になるといった問題を抱える企業は、単にサブスクリプションの課金方法をまねただけです。厳しい言い方をすれば、サブスクリプションをしているつもりになっているだけです。

購入後に何をすべきかが問われる

売り切りモデルの企業がサブスクリプションを採用するとき、圧倒的に欠けている視点、それが「つながり」です。

つながりとは、ユーザーとの関係性を指します。もっと言えば、企業がユーザーとの関係性を継続していることを意味します。ユーザーとのつながりの弱い企業は、サブスクリプションに移行してもうまくいきません。

そもそも売り切りモデルは、プロダクトを販売して必要利益を獲得するため、販売した時点でゴールを迎えます。そのため、販売以降のユーザーとのつながりを考えなくてもビジネスモデル上は成り立っていました。

もちろん、売り切りモデルの企業でもつながりを重視し、接遇研修などで接客の向上に努める、顧客管理をデジタル化するCRM(顧客関係マネジメント)システムを導入する、コールセンターを配置してユーザーからの問い合わせやクレームに対応するなど、ユーザーとの関係性を強化してきたところもあるでしょう。

しかし今後は、この程度のつながりでは不十分です。なぜなら、サブスクリプションの浸透により、ユーザーの要求水準が否応なしに高まっているからです。

つながりの強い企業は、主に「購入後」も見据えている特徴があります。所有から利用へと消費トレンドが変わったということは、継続して利用し続けてもらう工夫が必要になる、すなわち「購入後」に何をすべきかが問われるのです。

とくにサブスクリプションは、ユーザーにとっては、ネット上などで会員登録をすれば「契約」したことになり、不要になれば「いつでも解約できる」手軽さがあります。企業は、リースのように法的な契約に縛られていない「ユーザー有利」なビジネスモデルへの対応が問わるのです。

例えば、つながりの強い企業にアップル社が挙げられますが、アップル社はプロダクトを通じて、つねに生活のアップデートを提案してきました。B2Cであれば生活のアップデート、B2Bであればビジネスのアップデートです。同社のプロダクトを使用する前と後では、どれくらい生産性が変化するのかをプロダクトに詰め込んでいるのです。

サブスクリプションやフリーミアムといった、ユーザー有利なビジネスモデルが生活に浸透した今、ユーザーへの価値提案はプロダクトという時代はとうに終わり、プロダクトを使って得られるユーザーの生活のアップデートを真に考えられる企業だけが生き残れるのです。

川上 昌直 経営学者

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かわかみ まさなお / Masanao Kawakami

博士(経営学)。兵庫県立大学教授としてビジネスモデルを研究・教育するかたわら、ロンドン大学SOASでは特別招聘教授として、ビジネスパーソンに向けた「アートによる創造性開発」のコースディレクターを務める。利益イノベーションを主軸にしながらも革新的な価値を世の中に提案するため、アーティストのマインドセットを取り入れた新たなビジネスモデル概念の確立を試みている。諸橋近代美術館理事、ならびにチェルシーアーツクラブ(ロンドン)メンバーとして、日英でアーティストやアート関係者とのプロジェクトに関与しながら研鑽を積んでいる。主な著書に『ビジネスモデルのグランドデザイン』『収益多様化の戦略』などがある。

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