日本の大学生が「%」を理解できなくなった理由 約2割が「2億円は50億円の何%か」解けない

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──初期の教育も重要ですね。

いちばん大切なのは小学校。小学校は担任が主要教科を1人で教えますが、算数が得意な先生ばかりではない。3つの角度が異なる二等辺三角形がある、と教える先生もいるんです。だから、授業で「算数なんて大人になってから役に立たない。足し算と掛け算がわかればいい」とか平気で言っちゃう。家庭も同じ。家庭教師をしていたとき、親が子どもの前で「うちは代々理数系が苦手で」なんて言う。そんな負の暗示をかけないでよ、って感じ(笑)。

そこで7月に『AI時代を切りひらく算数』という教員と保護者向けの指導書を出します。暗記用公式中心の薄っぺらな参考書とは逆の、240ページもある本になりました。そりゃそうですよ、わからせようとすると、文字が多くなる。公式中心の参考書は図形の証明なんてほんのちょっとです。

学年ではなく、「理解別」の教育必要

──AIが出てきました。

AIの得意なことって何ですか? 創造的な仕事じゃないですよね。プログラムに従って計算したりするのは大得意。そう、くもわ、はじきの領域です。公式暗記の推奨は、子どもたちにAIの主戦場で競い合えと言っているようなもので、無意味です。人間は頭を使って、発想を磨き、社会をよくするためにAIを使う立場です。そのためには数学を通して、結果ではなくプロセスの重要性を理解することが有効です。

──個人の能力には差があります。

『「%」が分からない大学生 日本の数学教育の致命的欠陥』(芳沢光雄 著/光文社新書/780円+税/228ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

少子化で子どもの数が減り、考えも多様化しているわけだから、これまでのように同じ学年で同じ時期に同じことを学ぶ必要はない。理解の度合いに応じて教育する「理解別教育」を実現したい。

そう強く感じるようになったのは、ある学生の言葉がきっかけです。数学が苦手な者も、本当は時間をかけてでも理解したいと思っている、理解の遅い生徒にも適合した教育体制を採れるようにしてほしいと、学生は言ったんです。

──やることが山積みですね。

外交官だった祖父の芳沢謙吉が残した皿に書かれた「技術立国」は今も日本の指針です。実現のため、子どもたちへ本質的な理解による数学の学びを示したい。桜美林学園創立者、清水安三の言う「学而事人(がくじじじん)」(学んだことを人々、社会のために生かす)にも通ずると思います。

筒井 幹雄 東洋経済 記者

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つつい みきお / Mikio Tsutsui

『会社四季報』編集長などを経て、現職は編集委員。

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