大学入試"新テスト"採点基準の恐るべき曖昧さ 「50万人の答案」は"公平に"採点できるのか

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というのも、実際の試験では多種多様な解答が出るはずですが、それを見てある採点者は、「う~ん、この解答はちょっと物足りないけど一応○○○が書かれているからいいだろう」と判断するかもしれませんし、別の採点者は「物足りないからダメ」と判断するかもしれないからです。これでは公平性の確保はできません。

私は、今「多種多様な解答が出る」と書きましたが、そもそも問1、2、3のすべてにおいて3つずつ示されている「正答の条件を全て満たしている解答の例」(つまり正解例)がすでにかなり多種多様です。そもそも記述式問題の正解例がこんなに多種多様でいいのでしょうか? それは、すでに設問自体が不適切かつ曖昧だからなのではないでしょうか?

約50万の答案を1万人が20日間で公平に採点できるのか

それでも、小規模な試験で1つの会場ですべての採点作業が進むなら、その度に採点者同士が共通理解していくこともできないことはありません。でも、大学入学共通テストは非常に大規模ですから、そんなことはできません。日経新聞によると、約50万人の受験生の国語と数学の記述式問題を、約20日間で採点する必要があるとのことです。そのため、大学入試センターは1万人程度の採点者を確保し、事前研修を充実させるとも書いてあります。

また、次のようにも書かれています。「本番の試験前にはイメージ問題を使って採点者の事前研修を行う。問題が確定した後、試験実施前に同センターと採点責任者が採点基準について協議。試験後に実際の答案を見て採点基準を確定し、採点に取りかかる」。これを見てまた心配になるのは、「問題が確定した後、試験実施前に同センターと採点責任者が採点基準について協議。試験後に実際の答案を見て採点基準を確定」という部分です。

ここにも記述式問題の採点の難しさが表れています。「試験後に実際の答案を見て採点基準を確定」とのことですが、それには20日間のうちの何日間を充てるのでしょうか? 実際の答案を見るのは誰で、確定するのは誰なのでしょうか? 50万人分の答案を全部見るのでしょうか?そんなにドタバタな作業で適切な採点基準が作れるのでしょうか?確定した採点基準を、1万人もいる採点者に短期間でどのように周知徹底するのでしょうか?

採点基準は事前に作ってあるはずですが、実際の答案を見てからさらに細かい採点基準を作って周知徹底するということなのでしょうか? いろいろなことが不透明であり、なおかつ採点の実施に当たっては大きな混乱が予想されます。

以上、記述式問題の採点の難しさを書いてきました。繰り返しますが、一番心配なのは公平性を確保できるのかということです。

実際に、2018年の11月に約8万4000人の高校生が参加した試行調査(プレテスト)では、採点の途中で採点基準の調整が行われました。でも、それが採点担当者に十分伝わらなかったので、最終的にセンターで結果を補正するケースが出たとのことです。本番はそれよりはるかに大きな規模になるのですから、どうなることかと思います。

また、もう1つ記述式問題を取り入れることの大きな問題点は、受験生が試験結果の自己採点をしにくいということです。受験生は自己採点の結果によって出願大学を選ぶことになるわけですが、記述式問題の場合、自分が何点取れたかがわかりにくいのです。これは受験生の人生に多大な影響を及ぼすものであり大きな問題です。この問題については、おおたとしまさ氏が指摘しているとおりだと思います。

親野 智可等 教育評論家

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おやの ちから / Chikara Oyano

長年の教師経験をもとにメールマガジン「親力で決まる子供の将来」を発行。読者数は4万5000人を超え、教育系メルマガとして最大規模を誇る。『「自分でグングン伸びる子」が育つ親の習慣』など、ベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。全国各地の小・中学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会でも大人気。ブログ「親力講座」もぞくぞく更新中。講演のお問い合わせとメルマガ登録は公式サイトから。Xで毎日発信中。

 

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