社内の「逸脱者」から成功事例を探すべき理由 「戦略的思考・ロジカルシンキング」の弊害

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にもかかわらず、私たちは答えを内ではなく、外に求めようとします。外に答えがツールとして用意されており、それを活用することで高い効果が得られるのではと期待します。しかし、残念ながらそれは幻想です。即効性の高いことは揮発性も高いのです。ツールで人生が変わったという経験をした人がいったいどれだけいるでしょうか。

ポジティブ・デビアンス(PD)アプローチ

この身近なところに答えが転がっているので、それを積極的に活用しようという考え方が、ポジティブ・デビアンス・アプローチ(以下、PDアプローチ)と呼ばれるものです 。ポジティブ・デビアンス(positive deviance)とは、いい意味での逸脱者のことです。

例えば、全社的に売り上げが落ち込んでいたとしましょう。それでも営業担当者の中で高い成績を維持し続けている人や、販売店の中でも例外的に高業績を上げているところがあるはずです。そのような少数の逸脱者を探し出し、彼らの行動から学んでいこうというのが、PDアプローチです。

例えば、米ジェネンテック社が開発した慢性喘息治療薬「ゾレア」は、その優れた薬効にもかかわらず売り上げが伸び悩んでいました。この売り上げ不振の原因を追求する中で、全米242人いる営業担当者の中でたった2人だけが平均の20倍の営業成績を上げていることがわかりました。どちらも女性で、ゾレア販売における障害をうまく克服していたのです。

当時、ジェネンテック社の主力製品は抗がん剤で、その専門医は静脈注射に慣れていました。一方、ゾレアを扱うアレルギー専門医、小児科医は静脈注射に慣れておらず、患者にとっても煩雑な健康保険手続が必要で、結果として医師たちはゾレアを扱うことに難色を示していたのです。

PDである彼女たちは、医師や看護師に静脈注射の仕方をレクチャーし、事務員には保険手続のやり方を指導しました。このような地道な努力の結果、彼女たちの営業成績は例外的に高い水準を達成したのです。

しかし、それならベンチマーキングやベスト・プラクティスといった従来の手法と何が違うのかという疑問を持たれるかもしれません。確かに成功事例から学ぶという点では共通しています。ただし、根本的に異なるのが、成功事例を外部ではなく内部に求めるということ、そして、トップダウンではなくボトムアップで成功事例の普及を図るという点で異なっています。

私が主催するある勉強会では、華々しい成功を収めた企業のトップを講師として招き、そこで参加企業のメンバーと議論することが多々あります。しかし、あまりにも独自性の高いやり方を喧伝されると、参加メンバーからは「斬新的すぎて、ウチには参考にならない」という声がよく聞かれます。

ビジネス書やビジネス雑誌で取り上げられる革新的事例は、参考にはなっても、実質的にはあまり役立たないことが多いのです。しかし、成功事例が内部にある場合は別です。内部の同じ環境、制約条件の中でも成功しているのですから、環境の違いは言い訳にはなりません。だから抵抗なく受け入れられやすいのです。

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