広重の「浮世絵」で150年前の東京を読み解く

1枚の絵の中に情報がぎゅっと詰まっている

「東都名所 御殿山花見品川全図」歌川広重/天保(1830~44)後期頃。御殿山の花見の様子を俯瞰で描く。手前の台地と、奥に見える品川宿との高低差がよくわかる(太田記念美術館所蔵)
東京都渋谷区の太田記念美術館で「江戸の凸凹――高低差を歩く」展が6月1~26日、開催中だ。地名や地理に明るい エッセイストの能町みね子さん、東京スリバチ学会会長の皆川典久さん、太田記念美術館学芸員の渡邉晃さんの3人が、江戸の地形、高低差を描いた浮世絵を、それぞれの視点での見方を指南する。

浮世絵を手に、街歩きに出かけよう

渡邉:古地図や古地図アプリを持った街歩きは、ジャンルとしてすでに確立したように思います。そこに浮世絵も加えていただくと、街歩きはさらにおもしろくなると思うんです。古写真と浮世絵の大きく異なるのは、浮世絵が美しいカラーで描かれていること。色があるぶん、より当時の江戸の様子を想像することができます。

皆川:浮世絵のなかで広重は、江戸東京ならではの高低差のある場所を名所として取り上げています。坂道や階段、崖などを多く描いている。いま現在、東京は建物が建ち並び、地形がわかりづらいところもありますが、土地の高低差は江戸の頃と変わっていない。浮世絵で描かれた場所に行けば、タイムスリップした気分にも浸れる。東京の何気ない風景も「広重だったら描きそう」って、新名所に見えてくることもあります。

本記事は『東京人』2019年7月号(6月3日発売)より一部を転載しています(書影をクリックするとアマゾンのページにジャンプします)

能町:今日、たくさんの浮世絵を見て、江戸から東京って基本的には変わってないなと感じました。道や坂など同じ形で同じ幅のところもまだまだありますし、川がなくなってしまっても区境として残っていたりする。ビルが増えて、昔の面影を探しづらくはなっていますけど、山を切り崩すってことはなかなかできないことですし、高低差はきっとこれからも変わらないと思います。少なくとも300〜400年の歴史のある町だから、安易にいろいろ変えないでほしいなとは思います。

皆川:江戸の人と同じ坂を歩いていると考えるとワクワクしますね。残してほしいものはたくさんあります。

能町:地形は変えられないのですが、逆に、地名は容易に変えやすいんですよ。土地を削ったり、建物を建てたりするよりも、関わる人間が圧倒的に少ないから。行政の鶴のひと声で変更が可能なのです。そのシステムに対してけしからん、と怒っているわけではないです。ただ、せめて地名など長い歴史を持っているものを変えるときは、その筋の専門家に少しは相談してほしいなって思います。

皆川:確かに地名は変えやすい。だとしたら「背割り」での町名制度を復活させてほしいな。かつては、道路はさんで向かい側同士が同じ町名を名乗り、背割りが町名の境だった。現在、多くの市街地では道路中心線が地名の境界になっている。本来は道路を中心に町の単位ができていた、「向こう3軒両隣」です。京都は頑固にその制度を残していますね。

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