広重の「浮世絵」で150年前の東京を読み解く 1枚の絵の中に情報がぎゅっと詰まっている

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写真左から、みながわ・のりひさ/1963年群馬県生まれ。2003年に東京スリバチ学会を設立し、凹凸地形に着目したフィールドワークで観察と記録を続けている。のうまち・みねこ/1979年北海道生まれ、茨城県育ち。漫画・コラム・エッセイの執筆を中心に、最近ではテレビ、ラジオへも活動の場を広げている。わたなべ・あきら/1976年東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。博士(芸術学)。太田記念美術館にて「没後150年記念 歌川国貞」、江戸地理をテーマにした「追憶の広重」などの展覧会を担当(撮影:鈴木知之)

能町:この絵を見て思い出したのですが、このごろよく見ている90年代のドラマが、話の内容よりも映り込んだ背景が気になってしようがないときがあります。駅の掲示板や改札、通行人の服装や広告とか、いまはこんなもの誰も利用していないのに、と思うものがたくさん出てくる。会社のシーンでも、誰もパソコンを使っていない。当時は、それが当たり前だったけれど、20年経ってから見返すと、とんでもない内容に変わっていたりする。

このことを考えて、「『いま』の何気ないものを意図的に残しておかないと、そのうちに消えてしまう」って思うんです。電車のなかでみんながスマホを覗き込んでいる風景とかも、もしかしたら数十年後にはとても懐かしい風景になっているかもしれない。そういうものを記録しておきたい。

いまの東京の風景が100年後、200年後に残せる?

皆川:いま広重がいたら、電車のなかでのそんな現代風景をスケッチしているかもしれないですね。浮世絵は150年以上前のものですが、いまの東京の風景が100年後、200年後に残せるでしょうか。

能町:写真などのデータで残すことは可能なんでしょうけれども、写真を撮るときって、当たり前すぎる風景は撮ろうと思わないんですよね。けれども、10年以上経ったときにその光景がすばらしいことに気づく。上手な記録方法があればなあって思います。

皆川:能町さんでしたら、どのあたりの風景を撮りに行きますか?

能町:広重の時代は西は高輪大木戸までが江戸でしたが、いまは世田谷や練馬あたりも十分東京です。そういうちょっとした郊外に、何気ない素晴らしい風景がたくさん潜んでいるような気がします。かつて農村集落があり、いまは住宅地になった場所の地名なども調べていて楽しいので、今度、でかけてみようと思います。

渡邉:広重のように何気ない日常を切り取る力はとても大切だと思います。まずは浮世絵をたくさん見てもらいたいですね。そのうえで街を歩いてみると、楽しく見える物事が増えていくはずです。

浦島 茂世 美術ライター

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うらしま もよ / Moyo Urashima

美術や街、旅を中心に執筆。All About美術館ガイド。著書に『東京のちいさな美術館めぐり』『猫と藤田嗣治』など。

 

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