テスラ株が突然「紙屑扱い」され始めた理由 アメリカのマーケットに異変が起きている

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そして、マスク氏はペイパル売ったお金でスペースXやテスラを立ち上げ、ティール氏はフェイスブックの利益でリフトに投資した。ところが、トランプ政権に代わり、FEDもQE(量的緩和)からQT(B/Sの量的削減)に舵を切ると、様相が変わり始めた。

なぜ「モルスタ」はテスラ株を「くず扱い」し始めたのか

2014年、ウーバーには6000億円の価値があるとぶち上げ、自分でも1100億円を投資したゴールドマン・サックスは、上場時の株主にすでに名前はなかった。代わりにソフトバンクが筆頭株主になっていた。恐らく、多くのケースで、オリジナルのアメリカ系投資家はユニコーンへの初期投資を回収し、今はソブリンファンドや中国系ファンドがユニコーンを持っている。

そんな中、アメリカ系証券の変わり身の早さを象徴するのがテスラの株だ。モルガン・スタンレー証券は、先日「テスラの株価は最悪10ドルまで下落する可能性がある」と言い出した。自分の経験でも、いくら可能性とはいえ、まだ200ドル以上している株を10ドルまでの下落を予想するのは異様な話だ (普通はその前に倒産する)。

そして、最強と恐れられるGAFAをめぐる政治環境も激変している。アメリカは中国との覇権争いでGAFAを強化する必要がある。しかし国内をみると、ヒラリー候補がトランプ大統領に敗北してから、リベラルによるフェイスブックへの攻撃はやむ気配がない。

それどころか、今はフェイスブックに加えインスタグラムとワッツアップまで傘下に置く、マーク・ザッカーバーグ氏に対し「彼はあまりにも危険な存在になった。だからフェイスブックは解体すべき」と元フェイスブックの関係者たちがこぞって反フェイスブック運動を展開している。

いずれ同じような現象がアマゾンなど、ほかのGAFAにも起こることを個人的は想像する。だが、興味深いのは、FANGやGAFAを育てたミレニアルの次の世代には、ミレニアルとは異質の傾向があるということだ。

『フォース・ターニング』の筆者で、人口動態学者兼歴史家でもあるニール・ハウ氏は、西暦2000年以後に生まれたホームランダー世代(ジェネレーションZ)は、その前のミレニアル世代よりつながりを好まず、既存メディアよりネットを重視する傾向はない、というリポートを出した。

ハウ氏は同時にシリコンバレーやマイクロソフトやアマゾンを有するシアトル周辺では、ハイテク産業に勤めるリッチな親ほど、自分の子どもは学校へのスマートフォンの持ち込みを禁止している高額なプライベートスクールに入れている傾向があるという。

個人的にはこのところよく映画になる「人間社会の2極化」が始まっているようで怖い。選挙で平等に1人に1票が与えられるなら、支配者は被支配者を操作するしかない。ただこの原則は、相場ではずっと見てきた真実でもある。相場は塊をどう支配し、塊をどう操作するかだ。成功者は逆らわず、この塊を扇動しても、自分は決して中には入らない。

そんな中、激変する政界情勢では、民主主義の政治体制で、これまでのエリート主導の理念政治が限界を露呈し、ステイーブ・バノン氏のような扇動者が、米中貿易協議や欧州議会選挙でも暗躍している理由はなんだろう。どうやら金融市場と歴史に精通したバノン氏は、これまで世の中を支えた概念の塊が、自分で崩壊していくタイミングを見極める天才のようだ。

機会があれば、次回は、デイープ・ステートの成り立ちと、彼らが作ったアメリカの破壊者として、実はオバマ前大統領と、トランプ大統領は似ていることを、「バノン氏の正体」を探ることで触れてみたい。

滝澤 伯文 CME・CBOTストラテジスト

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たきざわ おさふみ / Osahumi Takizawa

アメリカ・シカゴ在住。1988年日興證券入社後、1993年日興インターナショナルシカゴ、1997年日興インターナショナルNY本社勤務。その後、1999年米国CITIグループNY本社へ転籍。傘下のソロモンスミスバーニーシカゴに転勤。CBOTの会員に復帰。2002年CITI退社後、オコーナー社、FORTIS(現在のABNアムロ)、HFT最大手Knight証券を経て現在はWEDBUSH傘下で、米国の金融市場、ならびに米国の政治動向を日系大手金融機関と大手ヘッジファンドに提供。市場商品での専門は、米国債先物・オプション 米株先物 VIXなど、シカゴの先物市場商品全般。

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