テスラ株が突然「紙屑扱い」され始めた理由 アメリカのマーケットに異変が起きている
一方、この米中貿易戦争を眺めるFED。株価がある程度戻ってからは、FOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)で使われてきた「Patient」(忍耐強く)という表現は、そもそも「利上げも利下げも、しばらくはない」というメッセージだった。
ところが、市場は「もう利上げはないが、利下げには前向きだ」と解釈した。これは伝統的に保守的だったウォールストリート・ジャーナルやバロンズ、さらにフーバーなどの保守系機関がこぞって利下げのナラティブ(ストーリー)を展開した影響が大きい。
なぜパウエル議長は「カメレオン」になったのか
だが4月のFOMCでジェローム・パウエルFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)議長はその認識を戒めた。結果、株は下がり出した。ただ昨年12月のFOMCでも利上げを断行しながら、1月にはピボット(方向転換)した。そして3月にはQE(量的金融緩和)の再開を示唆するほどハト派になりながら、またもやタカ派へピボットしたパウエル議長には、一部から不満の声が出ている。
ここでパウエル議長の名誉のためにひとこと言うと、FRB議長になる前の理事だったパウエル氏は一貫して筋の通ったタカ派だった。理事になったばかりの2012年、FOMC議事録に残されている事実として、パウエル氏はベン・バーナンキ元議長が「どんな手段を使っても」といって始めたQEに対し、「QEは債券市場にDuration(価格感応度) バブル を引き起こす」と批判的だった。
そして現在新進気鋭の女性FEDウォッチャーのダニエラ・D・ブース氏によれば、彼女がダラス連銀でリチャード・フィッシャー総裁のアシスタントだったとき、退任するフィッシャー総裁が、FOMCでFEDの過度にハト派的オペレーションに疑義を呈するのは、ダラスを代表するタカ派な自分と、理事のパウエル氏だけだったともらしたという。
では、なぜそのパウエル氏が「カメレオン」になったのか。簡単にいえば、パウエル氏がFRB理事になったとき、最初に懸念した前出のDurationバブルが完成してしまい、もうそれは元に戻すことができない状態にあるということだろう。もうこのバブルはつぶせない。
結果、筆者の目には、本来「最後は、債券は株より正しい」という市場の原則は崩壊し(債券のビジランテ(自警)機能の消滅)、株式市場はパウエル氏の意図に反して、いつ崩壊してもおかしくない債券バブルという病巣を抱えたまま並走している。
それでも、日欧の中央銀行の緩和政策は継続し、2019年の第1四半期には、9000億ドルを超える中国資金もアメリカに流れ込んだ。その結果、債券市場全体をみると、10年国債金利は2.3%前後。世界のベンチマークとしてのアメリカ国債は盤石に見える。だが、堅調な同国のGDPも借金の増加が前提だ。2018年に名目で瞬間5%のGDP成長を達成した同国経済は、6%を超えるアメリカ債務の増加に支えられている。
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