広告市場は09年度も大幅減少に! メディアは火だるま

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 ハリウッドでは映画本編へのプロダクト・プレイスメント(自社製品の露出)も活発だ。最近でもキアヌ・リーブス主演の『地球が静止する日』にはホンダ(3位)のシビックハイブリッドが登場している。タダで見られるテレビCMより、おカネを払って見る映画のほうが広告到達率や印象の定着度が高いためだ。広告戦略を見直す中で、邦画に同じ手法を持ち込もうとしてもおかしくない。そうなれば、4マス広告はますます窮地に立たされる。

サントリー、味の素は新聞広告を積極活用

捨てる神あれば、拾う神あり。自動車が紙媒体に対し厳しい評価を下している一方で、紙媒体への再評価が広がっている業界もある。4マス広告に占めるシェアが8%以上に及ぶ食品業界だ。

08年度、参入46年目にして悲願の黒字化を達成したサントリー(22位)のビール事業。年間シェアでライバルのサッポロを抜き去り、アサヒ、キリンに続く業界3位に躍り出た。この躍進を支えた要素の一つが、同社が得意とする広告戦略だ。

08年5月、講談社の週刊誌『モーニング』で連載中の人気漫画の主人公・島耕作の「社長就任記者会見&乾杯式」が盛大に行われた。このとき、島耕作が手にしていたビールがサントリーのザ・プレミアムモルツだった。

「最高のお祝いには最高金賞のビールを」というキャッチフレーズで、インターネット、雑誌、新聞を席巻し、プレゼントキャンペーンも展開。「強力なキャラクターを使ったクロスメディア戦略の効果は絶大だった」(久保田和昌サントリー宣伝部長)。島耕作ファンのサラリーマン層の取り込みに成功した。

サントリーの売上高に対する広告宣伝費比率は、ここ数年3%半ば台で横ばい。内訳は7割がテレビ、新聞が1割、雑誌が1割弱。ウェブは数%台で比率的には小さいが、金額の伸び率は最も高い。中でも、中高年をターゲットとした「セサミン」「マカ」など健康食品の通信販売は、新聞広告を重視している。紙面であれば商品の機能特性を詳細に説明できるうえ、読者層と製品のターゲット層が一致しているためだ。

同じ食品業界大手の味の素(31位)もアミノ酸健康食品や化粧品「ジーノ」を通信販売しており、この数年で数%だった新聞の構成比が十数%に拡大したという。「新聞広告は手を出しやすい金額。特に08年度の下期は出稿量を増やしている」(味の素広告部)と、価格面でも新聞広告は魅力だ。

食品の安心安全問題がクローズアップされたことも、新聞広告を見直すきっかけとなった。「30秒のテレビCMだけでは伝えきれないほど、消費者に伝えたい情報が多くなった。品質を訴求する内容の広告が増えてきている」(同広告部)と、食品業界ならではの特殊事情が影響している。

最たる例が08年1月末の中国製毒入りギョーザ事件。事件直後、市場は前年比5割まで縮小し、味の素のギョーザにも風評被害が及んだ。

3月、同社は一般紙に「心配なお客様はお問い合わせください」という、シンプルな内容の1頁広告を投入。その後も断続的に、ギョーザの製造工程や原材料について説明した新聞広告を出した。努力のかいあって、8月にはギョーザ市場は前年並みに回復。消費者に対する調査では、味の素に対する好感度が上昇したとの結果が出たという。

もちろんすべての食品メーカーが新聞を重視し始めたわけではない。下グラフは、とある食品大手の広告宣伝費推移。総額絞り込みの中で主に新聞広告を削減し、テレビを軸にした広告を強化している。4マス広告の10%を占め、業界としては最大広告主の化粧品・トイレタリー業界も、テレビ中心の広告戦略を変えていない。しかし、若年層などターゲット層によっては、ネットや携帯などへの広告を積極的に試みている。たとえば、資生堂(20位)は男性向けブランドの「UNO」ではネットのみで視聴できるテレビCMを展開している。また、大手訪問販売化粧品会社が08年にテレビCMをやめて、同社の業態に合ったラジオ広告に的を絞り込むなど、特徴的な動きもある。


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