広告市場は09年度も大幅減少に! メディアは火だるま
ドコモなど携帯各社は引き続きテレビ重視
自動車、電機など主要業界の業績悪化が深刻を極めている中で内需の星、携帯業界は、メディアにとって最も重要なお得意先かもしれない。大手3社のNTTドコモ(21位)、KDDI(27位)、ソフトバンクモバイル(50位)とも09年3月期は営業増益を見込む。新規販売台数は大きく落ち込んでいるが、その分多額の顧客獲得費用の減少につながっており、これが業績にプラスに働くという特殊事情もある。
ソフトバンクモバイルの今09年3月期の広告宣伝費は「端末販売の落ち込みで端末関連広告が減っており、トータルで前年度比約1割減る」(栗坂達郎マーケティング・コミュニケーション本部長)。KDDIは「第2世代のツーカーのサービス終了に伴う告知のために新聞広告を増やした前年度から比べると数%減少する」(齊藤裕弘マーケティング本部宣伝部長)。ドコモは「NTTグループ全体として広告枠を買い付けしている。短期的な変動はあまりなく、ほぼ横ばいになる見通しだ」(青谷宣孝プロモーション部メディア開発担当部長)。広告宣伝費を大幅にカットしているような会社はない。ほかの業界が広告宣伝費を削っているため、思いどおりの番組、時間枠を買いやすい環境だ。
販売台数の落ち込みや経済情勢の悪化から、来10年3月期は各社とも削減意向。その中でテレビを軸とした広告は手を抜けない。「広告宣伝の顔になっている白戸家だけでなく、隠し球はいろいろと用意しており、今年度を上回る話題を提供する。そしてauやドコモのように、コンテンツ訴求もしていきたい」(ソフトバンク)。「ソフトバンクに奪われた活力感を出していきたい。競合2社と比較して見劣りするようなことはできない」(KDDI)。「競合2社に比べて料金が高いというイメージが残っているので、それは違うということを訴求していく」(ドコモ)。
そんな3社のCMは、制作スタッフに業界トップクラスのクリエーターが集結していることもあり、CM上でも個性を競っている。トップシェアのドコモは顧客を囲い込み、強みの若年層をしっかり取り込みたいKDDI、そしてつねに話題の中心でありたいソフトバンク--。
年明けに放映された箱根駅伝を見ていた人は、おやっと思ったに違いない。ソフトバンクのCMでおなじみの白戸家が、読売新聞社のCMに起用されていたからだ。異例のコラボについて、ソフトバンクモバイルの栗坂氏は「白戸家のお父さんたちがいろいろなところで露出すると、同時にソフトバンクのイメージも上がる」と、その狙いを明かす。
マスメディアを使って大量の広告宣伝を投下している携帯各社からのメディアへの注文はシビアだ。特にテレビ局に対しては、「何十年もスポットとタイムという商品だけで融通が利かない。年間ではなく商戦期に合わせて9カ月だけ欲しい場合にスポットで対応しなければならず高くつく」「おカネをかけない番組が多くなっているが、コンテンツ制作は命ではないのか」といった厳しい指摘が並ぶ。
旅行はネットと親和性 ネット広告強化のANA
旅行業界ではネット広告を強化する動きが顕著だ。理由は自社のネットサイトへの誘導が容易なためだ。「さまざまなプランを比較検討してから申し込みをできるため、若年層はネットを活用して旅行プランを選ぶ。代理店側も対面や電話より事務コストを低く抑えられるため、ネットへの誘導強化を続けている」(大手旅行代理店)。
そうした中で、全日本空輸(ANA、73位)は、05年春から続けてきた中国旅行キャンペーン広告「LIVE/中国/ANA」を08年春に急きょ打ち切った。四川大地震やギョーザ事件が起きる中での旅行商品の積極的な需要喚起は、逆にブランドイメージの低下につながると判断したためだ。国際線を中国路線に集中してきたANAにとって苦渋の決断だった。
4年前に始まったこのテレビCMシリーズでは著名人を次々に採用し、中国各地でのライブ的な映像が定評だった。中でも営業推進本部の寺園浩昭・主席部員が自賛するのが女優の黒木メイサ出演の広告。中国屈指の秘境で世界遺産でもある九寨溝への旅行商品を宣伝。今でこそ日本からの観光客は多くなったが、当時は少なく、一か八かの賭けでもあった。だが、ふたを開ければ、テレビCMを始めた直後から予約電話や申し込みが殺到。寺園氏は「チャーター便はあっという間に満席になった」と当時を振り返る。テレビCMの爆発力を思い知った瞬間だった。
だが、原油高や景気悪化時には真っ先に広告宣伝費を削らざるをえない。ANAの場合、07年度の広告宣伝費は160億円余り。そのうち、媒体別の内訳はテレビが半分強で他媒体を圧倒するが、08年度は広告宣伝費全体が150億円へ減少することに加え、テレビの比率は3~4%ポイント落ちる見通しだ。
一方、急速に伸びているのがネット広告。比率は5~10%だが、それは年々上がっているという。横ばいが続く雑誌を08年度に上回るのが確実なほか、15%超の新聞にも迫る勢いだ。「ネットは商品の詳細を説明するのに便利。雑誌も同様な効果を期待できる。一方、テレビ、新聞はフックとしては魅力的。そこからネットへの誘導も図れる」と寺園主席部員は話す。