いちいち「批判的な上司」がもたらす甚大な弊害 「操作的マネジメント」では部下は成長しない

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そうであれば、この瞬間にマネジャーやリーダーは、心の中で彼の言葉を「それは思い込みではないか、被害妄想ではないか」と批判的に判断しながら「聞く」のではなく、「そうか、君にとって田中先輩は鬼のように思えてならないか。職場は地獄のように思えてならないか。それはつらいだろう……」という共感の心を持って、まずは、しっかりと「聞き届ける」べきであろう。

ただし、この「聞き届け」ということは、決してその部下の言い分を「そのまま鵜呑みにする」ということではない。また、その言い分に従って、何かの判断を下すという意味でもない。

「聞き届け」の最も大切な点は、部下やメンバーの主張や言い分が、どのようなものであっても、一度その主張や言い分を「その人にとっての真実」という視点から受け止め、そうした思いに苦しんでいる部下やメンバーの姿に、1人の人間として「共感」することである。

「成長の壁」の原因は心の問題にある

この「聞き届け」の技法は、このように言葉で語ることは易しいが、それを実践することは決して容易ではない。

しかし、もしわれわれが深い共感の心を持って部下やメンバーの言葉に耳を傾けるならば、しばしば不思議なほど、彼らの心に何らかのいい変化が起こる。そして、彼らは時に、われわれの想像を超えた心の成長を遂げていく。

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筆者は、つたない歩みではあるが、マネジャーやリーダーとしての歩みの中で、そのことを経験してきた。そして、大切なことを教えられてきた。

部下やメンバーが仕事において「成長の壁」に突き当たるときは、ほとんどの場合、「仕事のスキルが身に付かない」といった「技術の問題」ではなく、自信の喪失や人間関係での葛藤など、「心の問題」が原因になっている。

そのため、部下やメンバーの「職業人としての成長」を支えたいと思うならば、多くの場合、われわれマネジャーやリーダーは、その部下やメンバーの「人間としての成長」を支えることから始めなければならない。

これから、どれほどAIが発達しようとも、どれほど職場に普及しようとも、この「心のマネジメント」は、生身の心を持った人間だけができる、そして人間に残された「究極のマネジメント」になっていく。

それゆえ、この「心のマネジメント」を行える力を身に付けたならば、われわれは、これからのAI時代においても、ますます活躍する人材になっていけるだろう。

田坂 広志 田坂塾・塾長、多摩大学名誉教授

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たさか ひろし / Hiroshi Tasaka 

1951年生まれ。1974年東京大学卒業。1981年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。1987年米国シンクタンク・バテル記念研究所客員研究員。1990年日本総合研究所の設立に参画。取締役等を歴任。2000年多摩大学大学院の教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンク設立。代表に就任。2005年米国ジャパン・ソサエティより日米イノベーターに選ばれる。2008年世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Agenda Councilのメンバーに就任。2010年世界賢人会議ブダペスト・クラブの日本代表に就任。2011年東日本大震災に伴い内閣官房参与に就任。2013年全国から経営者やリーダーが集まり「21世紀の変革リーダー」への成長を目指す「田坂塾」を開塾。

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