いちいち「批判的な上司」がもたらす甚大な弊害 「操作的マネジメント」では部下は成長しない
筆者が、長くマネジメントの道を歩む中で、極めて参考になったのが、河合隼雄氏のカウンセリング論であったが、とくにその中でも、「心のマネジメント」という意味で非常に役に立ったのが、この「聞き届け」の技法である。
近年、職場でのうつ病などの問題が深刻化しており、また、職場のメンバーの中で、パワハラなどさまざまな人間関係の問題で悩む人が増えている。
こうした状況において、人事部などからの要請もあり、マネジャーやリーダーには、部下やメンバーと定期的に面接することが求められるが、この「聞き届け」とは、こうした面接などにおいて大切な技法である。
この「聞き届け」の技法を、一言で述べるならば、単に表面的に相手の話を「聞く」のではなく、相手が語る話を深い共感の心を持って、自身の心の奥底まで届くような思いで「聴く」ということである。
そして、このとき、心に置くべきは、「その人にとっての真実」という言葉である。
なぜなら、面接などにおいて、われわれが部下やメンバーの話を聞くとき、多くの場合、相手の話を自分の価値観で判断しながら聞いてしまうからである。われわれは、しばしば「自分にとっての真実」で判断しながら、ときに相手を裁きながら聞いてしまう。
「相手にとっての真実」を受け止める
例えば、1人の部下が、あるマネジャーのところにきて、退職の意思を伝えるとともに、こう言ったとする。
「職場の田中先輩は、鬼のような人です。後輩など仕事の道具だとしか思っていないんです。もうこんな地獄のような職場にはいたくないです」
このとき、このマネジャーは、表面的にはその部下の言い分を黙って聞くが、しばしば心の中では、こう思いながら聞いている。
「いや、それは思い込みではないかな……。田中君はそれほどひどい人物ではないよ」「この職場が地獄のような職場だというのは、少し被害妄想ではないかな。自分は、多少の問題はあっても、よい職場だと思うが……」
このマネジャーの考えは、社会常識的に見て、それほど間違った考えではないが、カウンセリング的な視点から見ると、必ずしも正しいとは言えない。なぜなら、この思考を抱きながら、この部下の話を聞いているかぎり、それは「聞いている」だけであり、「聞き届け」になっていないからである。
もし、われわれが本当に部下やメンバーの声に耳を傾け、「聞き届け」をしたいならば、この「その人にとっての真実」という言葉が、重要な意味を持つ。
すなわち、この部下が、「田中先輩は鬼です」「この職場は地獄です」と言っているのは、今、彼にとっては田中先輩が鬼のように思え、職場が地獄のように思えてならないのであり、それが彼にとっての「真実」なのである。
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