しまむら、「消費増税」で価格表記を変えるワケ 無印は「わかりやすさ重視」で税込み表示継続

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販売不振から脱する糸口が見いだせない中、安さをウリとするしまむらにとって消費税を含んだ税込価格のみの表示では、税抜き価格で表示しているユニクロなど競合の商品と比べられた際に価格のインパクトを打ち出しづらい。

中長期的に見ても、「消費マインドへの影響を考えると税込表示のままでは増税分の価格転嫁は基本的に難しい」(アパレルの幹部)とも言われる。しまむらの北島社長は「将来的に消費税増税は10%で終わらず、20%手前までは上がっていくのではないか」と見通したうえで、「そのときに『総額(税込)表示しかやらない』と言って(増税負担を会社側で)すべて飲み込むわけには到底いかない」と吐露する。

無印は税込表示を維持する予定

方針転換を打ち出したしまむらとは対照的なスタンスを見せるのが、生活雑貨店「無印良品」を展開する良品計画だ。同社は2014年の消費増税時、しまむらと同様に税込価格のみの表示を継続。ほとんどの商品は販売価格を据え置き、増税分の負担を自社で飲み込んだ。

無印良品では今秋の増税以降も、税込表示を維持する方針だ(撮影:今井康一)

今年10月の増税への対応は正式決定していないものの、「総額(税込)表示は当然維持する予定」と良品計画の松﨑曉社長は語る。ASEAN諸国への生産地移管や委託工場の集約化で原価低減を進め、増税に伴う商品の値上げも極力避ける方針だ。「ものによっては価格を変えることもあるかもしれないが、基本的には今出している価格でやっていきたい」(松﨑社長)。

無印が税込表示を貫く裏には、同社の経営理念が密接に関わっている。もともと西友のPB(プライベートブランド)として生まれた無印は、商品開発やサービスの面で過剰な装飾や包装を排除し、消費者目線での使いやすさやわかりやすさを重視してきた。その延長線上で、わかりやすさを追求した税込価格での表示も、無印のブランド戦略の一環となっているわけだ。

実際、昨年から今年にかけて東京・銀座や中国・深センなどに開業した「MUJI HOTEL」では、サービス料や税金を含めた客室価格のみを掲載。さらに年間を通じて宿泊料金が一切変動しないという、独特の価格戦略を採用している。

日本チェーンストア協会は価格表記のあり方について「事業者自らが適切な方法を選択すべき」と主張し、税込表示の義務付けの恒久的廃止を求めている。税抜きで少しでも安さを打ち出すか、税込価格で買い手にとってのわかりやすさを優先するか――。10%への増税まで5カ月を切った。小売各社は価格改定の有無や表記について、難しい判断を迫られそうだ。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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