通信制高校は、「不登校の受け皿」だけじゃない 答えは、高校初のeスポーツコースにあった

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実際のカリキュラムは、「ストリートファイターV」を提供する大手ゲーム開発会社のカプコンなど、ゲームメーカーと協力して練り上げたもの。「eスポーツという枠がなかったとしても、社会で通用する人材を送り出せるコースにしたい」。これがメーカーとルネサンス高校で共通した強い思いだった。

eスポーツコースを担当する法人営業部の福田和彦部長は「メーカー側と協議し、カリキュラムの中身を何度も何度も修正していった」と語る。コース開設当初、生徒たちは互いに口を開かず、このままやっていけるか心配だったという。が、指導の成果もあり、次第に活発なコミュニケーションが行われるようになっていった。

生徒の評判は上々のようだ。故郷の沖縄県を離れ、一人暮らしで学校に通う松崎童神(どうしん)さんは、「小さい頃からゲームが大好きでeスポーツに興味があった。前に通っていた学校は先生と合わなかったが、今は学校に通うことがめちゃくちゃ楽しい。親は反対ぎみで説得にだいぶ時間がかかりましたけど」と笑顔で話す。「eスポーツは中学生のころから知っていて、高校でもやってみたかった。普通の高校だと、学校内でメンバーを集め大会に出るのは難しいが、ここならすぐに出られる。ゲームという共通の基盤もあって、皆仲がいい」と語るのは加藤大智さん。加藤さんは大学進学を目指している。

同じく4月1日には、東京の新宿代々木キャンパスでも、eスポーツコースが開講した。今後は生徒の目標となるような大会を開催したり、小中学生でも参加できるイベントを企画したり、全国の高校のeスポーツ部と連携した取り組みも進める構えだ。

不登校や引きこもりに伴走する

ルネサンス高校は2006年、インターネットを活用した新しい通信制高校を目指して開校した。運営会社はルネサンス・アカデミー。ジャスダック上場のブロードメディアの子会社だ。生徒はスマホやパソコン、タブレットなどで動画の授業を受け、レポートを提出。先生がそれにフィードバックを加えて学習を進めていく。時間や場所を選ばずに学べるのが最大の特徴である。実際に先生の指導を受ける登校日(スク-リング)は最短で年間4日。3年間で高校卒業資格を取得できる。

不登校や引きこもりだった生徒が多いこともあり、教員によるサポートに力を入れてきた。生徒を受け持つ担任の仕事は多岐にわたる。電話やメール、LINEを駆使し、学習状況を確認して課題の提出を促す。そればかりでなく、健康診断やイベントなど連絡事項の伝達。全日制の高校よりもはるかに多様な生徒の進路相談、そしてプライベートな悩みの相談も受けるなど、さまざまなサポートを行う。担任というよりは、生徒の伴走者というイメージだろう。

英語を教える田村先生(右)。週3回登校する通学コースを選ぶ生徒もいる(写真:ルネサンス・アカデミー)

通信制のため、直接生徒と顔を合わせる機会が少なく、さぞコミュニケーションに苦労していると思いきや、通信制だからこそ、個々に応じたサポートができる面があるという。英語を教える田村武士先生は「だいぶ手を焼いた生徒もいたし、どうして伝わらないのかと思うこともあった」と苦労を明かす。「全日制の高校にいたとき、個人の指導に時間をかけるなと上司に言われ、おかしいと思った。時間をかけて相談に乗ってあげられる環境があるのは、通信制ならではなのではないか。引きこもりの生徒などに、少しでも外に出られるようアドバイスができればいい」(田村先生)。

同じく英語を担当し、中高一貫の女子校に勤務していた陰山訓子(くにこ)先生も、「ほかの生徒の目もあるので、全日制では個々の生徒への対応が難しい」と指摘する。「(ルネサンス高校では)卒業後に何をしたいのか、自分の好きなことがまだ見えない生徒も多い。それぞれのタイミングで後悔なく選択ができるように、焦らせないようにアドバイスしていきたい」(陰山先生)。

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