人は褒められて育つ 日本理化学工業会長・大山泰弘氏③

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おおやま・やすひろ 1932年東京生まれ。チョーク製造の日本理化学工業会長。中央大学法学部卒。父親の経営していた同社に入社し50年以上実質的な経営に当たる。知的障害者を積極的に受け入れる一方で、チョークでは業界のトップ企業である。

日本理化学工業では55人の知的障害者が働いていますが、採用に当たっては条件があります。それは、(1)食事や排せつも含めて自分のことは自分でできる、(2)簡単でもいいから意思表示ができる、(3)一生懸命に仕事をする、(4)周りの人に迷惑をかけない--というものです。これは入社時の約束でもあります。

 もし周りに迷惑をかけるようなことがあれば、就業時間中であってもすぐに自宅や施設に帰します。親御さんには、「もしお子さんが反省して四つの約束を守って働き続けたいと望むならば、すぐに連絡をください」と伝えます。大概は何日もしないうちに親御さんから電話があって、再び元のように通ってくるようになります。彼らも家や施設にいても楽しくないのでしょう。ここに来れば一緒に働く仲間がいます。

褒められるうれしさは知的障害者も健常者も変わらない

もちろん知的障害者はそれぞれ個人差が大きく、簡単にはいかないこともあります。周りと協調できず、奇声を発したり多動を示したりといった行動障害に直面します。実際、しょっちゅう問題を起こす子もいました。でも社員には、「もし行動障害が毎週あるなら辞めてもらうことも考える。でもそれが2週間に1回、3週間に1回になっていくなら、本人が成長したと思うようにしよう」と言ってきました。ずっとそんなことの繰り返し。そうやってよくなった子が何人もいます。

仕事でうまくいって褒められたときや、「君が来てくれたから今日はこの仕事が進むんだ、ありがとね」と言われたときの心地よさ。そうしたときのうれしさは知的障害者も健常者も変わりません。彼らも働くことを通じて我慢することを覚えていくんだと思います。

それだけに一人ひとりの発達に応じて、作業内容や職場環境を考えることが必要になります。そうしたきめ細かい対応は、むしろ大企業より中小企業のほうが可能かもしれません。

障害者雇用は、健常者の従業員の意識も変えました。初めのうちは面倒を見ようという気持ちが強かったのですが、障害者の熱心な働きぶりや成長を見るにつれ、自分たちもしっかりやろうという気持ちになっていきました。何より私自身が彼らに出会ったことでさまざまなことを学びました。

日本理化学は小さな会社ですが、従業員には社会に貢献しているんだ、弱者の役に立っているんだという自負があります。そうした誇りが、従業員のモチベーションの向上にもつながっていると思います。

週刊東洋経済編集部
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