技は磨くと術になり、最後は芸になる 健康な体にこそ、健全なスイングは宿る

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奥田靖己は、シニアツアーで2位を何回も繰り返して、なかなか勝利に結び付かなかった。そしてようやく今季の終盤に開かれた「富士フイルムシニア」で初優勝した。え? と思うかもしれないけれど、確かに初優勝である。

「初優勝できて、今は正直ホッとしているというのが本音ですよ。ほんと、もう勝てないのではないか、と思ったこともありますからね。でも、練習ラウンドでハーフ、青木功さんと一緒に回らせてもらって、プロの生き様みたいなものを感じたんです。師匠は、技は磨くと術になり、最後は芸になるって言うんですけど、術ぐらいまでは近づけたかな」と語った。

今では数少ない個性派プロで、その理論はなかなか脳と体になじみにくいものだ。師匠は高松志門。一度、その高松さんから教わったことがある。「ゆるゆるグリップ」が基本で、今はやりのワンピースだとかボディターンだとか、左の壁だとか、そういう飾りをいっさい排除して、ともかくシンプルな理論だ。まずグリップをユルユルに。それはつまりグリッププレッシャーを最小限に抑えなさいということだ。初めは、こんなにユルユルで、握っている感覚がなくていいのか、その不安が増幅するばかりだった。さらにすべての関節は柔らかく、である。ちょうど両腕の肩口から、まるででんでん太鼓のように、腕に意思を持たせない。

「こうすれば、ボールの位置なんて、あまり神経質に考えなくてもいいんですよ。どこにあっても打てるんですから」と言われて、ますます混乱した記憶がある。

その弟子の奥田は、もちろんその理論がベースになっている。試合前の打球練習でも、いかにユルユルに、体が力まないで打てるか、という基本に戻った練習をいつも加えている。たとえば、ドライバーで、これ以上ゆっくり振れないスピードで、しかも力まず、グリップもユルユルで、見ていると無気力なスイングで打つ。ドライバーで100ヤードも飛んでいただろうか。

それが奥田のスイングの原点回帰だ。それを確かめた後、プレーに入るのだ。その奥田に、最終戦の「いぶすき白露シニア」のときに、来年の抱負を聞いてみた。

「忠実(まめ)やかに、プロらしく、ギャラリーとの垣根をもっとなくして、自分のゴルフをしっかりと見てもらいたい」と言った。そしてこう続ける。「僕たちは、人生もいろいろ経験してきて、ゴルフも七転八倒、喜怒哀楽を通りすぎて、ようやくプロゴルファーの集大成の年齢とキャリアに到達してきていると思うんです。ですから、術も芸も見てもらいたい」。

ちなみに、奥田に限らずどの選手も抱負の最後は「まず健康な体を保つこと。それだけです」と語った。健康な体にこそ、健全なスイングは宿るのだろう。

三田村 昌鳳 ゴルフジャーナリスト

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みたむら しょうほう

1949年生まれ。大学卒業後、『週刊アサヒゴルフ』副編集長を経て、77年にスポーツ編集プロダクション(株)S&Aプランニングを設立。日本ゴルフ協会(JGA)オフィシャルライター、日本プロゴルフ協会(JPGA)理事。逗子・法勝寺の住職も務める。

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