ドラマが生まれた女子ツアー最終戦 たった1打が、明暗を分けた

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女子プロゴルフツアーの最終戦は宮崎で開催されました。この大会はメジャーであり出場選手は限られています。今年のツアー優勝者、前週までの賞金ランキング25位以内の者、そしてワールドランキング上位者など、今季ツアーを牽引した28名で競われました。そして優勝は地元宮崎出身の大山志保プロ。大いに沸きました。また、賞金女王争いは4年ぶりに最終戦までもつれ込み、ドキドキハラハラでした。

まず、優勝の大山プロ。昨年シード落ちして、クオリファイトーナメントで今年の試合出場権を得ました。それも22試合でした。ケガや体の不調もある中、出られる試合で確実に賞金を積み重ね、この大会の出場権をまず獲得し、そして2位以下を4打も突き放して優勝をもぎ取ったのです。

実は最終日、前半なでるようなストロークから1.5メートルパーパットを外した途端、苦楽を熟知している米国人キャディーからすごくしかられたそうです。「そんな弱く打っているからいつも崩れるんだ」と。これまで何度か優勝争いはするものの、最終日に自滅するケースがほとんど。その原因はパットだったのでしょう。業を煮やしたキャディーがついに口火を切り、ハッと気づいた大山プロ。心が決まり本来の強めのストロークで、9番ホールでは圧巻のイーグルを決め、精悍な顔つきからピンにピタリと寄せるショットを連発し、執念で優勝を引き寄せたように感じました。

優勝コメントで「大好きなゴルフをしたい、という思いが強かった」と話していましたが、ケガが多く成績が落ち込んだ時、つらくていろんな思いがよぎり、さまざまな葛藤を繰り返したに違いありません。それを克服する気迫こもるプレーに、また一人、ゴルフファンを沸かせるプロが戻ってきたと、とてもうれしくなりました。

そして最終ホールまでもつれた賞金女王争い。賞金女王を8カ月間ずっと走ってきた森田理香子プロが3週間前、横峯さくらプロに優勝で逆転されると、重圧から対峙することに逃げ腰だった森田プロが崖っぷちの強さを発揮し、優勝で奪い返しました。ここぞという時に勝った二人はすばらしい。めったにできるものではありません。最終日を迎え、じわじわ追い上げる横峯プロ、じっと我慢を重ねる森田プロ。横峯プロが単独8位で、なおかつ森田プロが15位以下なら賞金女王が逆転する状況で、横峯プロが7位タイでフィニッシュ、森田プロは12位タイで推移していました。

残り数ホール。7位タイの選手の数で賞金配分が変わるため、成績上位の選手が上がり終えるまで二人の獲得賞金が決まりません。そして、結局1打が二人の明暗を分ける結果となり、森田プロが今季ツアーの女王となったのです。

今年は19都道府県で試合を開催し、全国のゴルフファンの皆様にたくさんのご声援をいただきましたこと、心から感謝申し上げます。

小林 浩美 プロゴルファー

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こばやし ひろみ

1963年福島県生まれ。89年にプロ初優勝と年間6勝を挙げ、90年から米ツアーに参戦、4勝を挙げる。欧州ツアー1勝を含め通算15勝。現在、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)会長。所属/日立グループ。

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