9割反対でも伊藤忠がデサントを買収した理由 生産性を上げる「敵対的TOB」の条件

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伊藤忠の行ったデサントに対する「敵対的TOB」を、経営学の視点から読み解きます(撮影:梅谷秀司、尾形文繁)
2019年3月、総合商社の伊藤忠がスポーツ用品大手のデサントに対してTOB(株式の公開買い付け)を成立させました。このTOBに対しては、デサントの労働組合が反対し、国内従業員の約9割以上が反対署名をしたといわれています。このような「敵対的TOB」が日本の主要企業間で成立したのは、実質的には初めてです。今後、「敵対的TOB」は日本に定着していくのでしょうか。
成功する日本企業には「共通の本質」がある「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学』の著者でもある菊澤研宗氏が、「敵対的TOB」を生産性の向上につなげるための条件を解説します。

「敵対的TOB」に対する思い違い

伊藤忠がデサントに対して「敵対的TOB」を行ったというニュースに驚いたビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。大会社である伊藤忠が、資本の論理、つまり金の力で、弱いものいじめをしたような印象もあり、伊藤忠にとってはマイナスのイメージが残りそうです。

しかし、伊藤忠がいじめる側で、デサントがいじめられる側と、単純化してこの出来事を見てしまっては、多くの日本企業が抱える「生産性の低下」という問題からいつまでも抜け出すことができないでしょう。

両社の対立は、もともと経営戦略の違いが原因だったと言われています。「韓国市場を柱とする既存の戦略の維持」を主張するデザントに対し、伊藤忠は「中国市場の強化などによる事業の分散化」を求めていました。

さらに、デサントが伊藤忠に対し事前に相談することなく、女性下着最大手のワコールとの提携を決めたことも、関係を悪化させる一因となりました。こうして、伊藤忠は不信感を高め、国内大手企業同士では異例の「敵対的TOB」へと発展したと言われています。

この対立を、カリフォルニア大学バークレー校のデイビット・ティース教授によって展開されている最新の経営学理論「ダイナミック・ケイパビリティ論」の視点から眺めると、新たな側面が見てきます。

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