教育に革新を引き起こす「3つのテクノロジー」 アップルが考える教育のリワイヤリングとは

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何といっても、IoT対応機器を通じて教師にリアルタイムで情報が伝われば、生徒が興味を惹かれやすい内容の種類や最適な教え方を、生徒別に特定しやすくなる。

これらがわかれば、いちばん助けが必要な生徒も瞬時に判別できるので、積極的に声をかけられるようになる。そうすれば、生徒が自ら教師に助けを求める必要がなくなる。わからないと教師に助けを求めることを恥ずかしく感じている生徒は多い。

2016年、IoTでつながっている機器の数はすでに170億を超え、2020年には300億を超えるという予測が発表された。世界中の学校で、IoT対応機器の導入が広がるのは時間の問題だ。

3Dプリンター

3Dプリンターは、教育で活用するテクノロジーのなかで最もワクワクするものの1つだ。学習を根底から変える可能性を秘めている。従来のプリンターとさほど変わらない大きさのこの機械は、デジタルファイルを3次元の物体に変えることができる。

私は、3Dプリンターは学習を革命的に変えると考えている。これがあれば、子どもたちはどんなものでも具現化できる。使用できる素材の幅も広く、小さなフィギュアから人が実際に住める家まで造形できる。医療業界では、3Dプリンターを使って人間の臓器を模したものまで造形されていて、いずれ臓器提供者は不要になる日がくるだろうと科学者たちは期待している。

私は3Dプリンターのことを、教育にとって最高のテクノロジーの1つだと捉えている。この機械を学習に取り入れれば、当然ながら、子ども自身で何かを生みだす学習を行えるからだ。

先日私が訪れた学校では、3Dプリンターを使って科学を学ぶ実験教室が開かれていた。年上の生徒が年下の生徒を引き連れてプリンターのあるラボへ行き、体積について学ぶというものだ。

また、科学や歴史、芸術の授業で3Dプリンターを活用すれば、生徒には自分の手で何かを生みだす学習を体験させることができ、教師には目を見張る視覚教材が次々に生みだされるという楽しみができる。

何かについて読むことと、その何かを物理的に手にすることは、まったくの別物なのだ。

『Appleのデジタル教育』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします) 

ここで紹介したテクノロジーはほんの一部だが、やり方は違えどもそのすべてに教育の大勢を一変させる力がある。どれも小さな規模では影響をおよぼし始めていて、その活用を増やす、すなわち規模を拡大するという本当の意味でのチャレンジにも取り組んでいる。

規模が拡大すれば、幸運なごく一部の生徒に限らず、すべての生徒と教師がその恩恵にあずかれるようになる。

これは、教育を一変させる力が最も強いAR(拡張現実)が世に出回り始めたという意味でも、いいことだといえる。大勢の子どもたちがその恩恵にあずかれるようになるスピードが十分に速ければ、私たちの目の前で教育の未来が変わるかもしれない。

ジョン・カウチ アップルの教育部門初代バイス・プレジデント

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John Couch

カリフォルニア大学バークレー校大学院でコンピュータ科学の博士号を取得後、ヒューレット・パッカードに入社。1978年アップル入社。1984年に退社しサンディエゴの学校改革に乗りだす。2002年、アップルがデジタル世代に向けた教育改革を目標に掲げて教育部門を新設したことに伴い、再びジョブズに請われてアップルに戻り、同部門の初代バイス・プレジデントに就任。学習のパーソナライズ化を熱心に推進し、バラク・オバマ前大統領が始めた「NETP(教育テクノロジー導入計画)」や「コネクトED(教育現場におけるテクノロジー事情の改善を目的としたプロジェクト)」にアップルの代表として参加。

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